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先程の慣れたやり取りを見て何となく察して頂けたかと思うが、彼はお客様である女性客から頻繁に連絡先を渡される。
俺の「顔がいい奴が立っとけば~」なんていう単純な考えは見事に功を成したわけなのだが、そのモテっぷりは想像以上だった。
彼がシフトに入っているか居ないかでその日の売り上げが左右されると言っても過言ではない。ここまで人気が出ると、もう毎日フルで入ってくださいと頼み込みたいところではあるが、彼も学生の身。あまり無理は言えない。
それでもやはり彼の希望休を中心にシフトを組んでいる節はあった。
ササッと誰もいない休憩室に入り、新人くんのロッカーを開ける。働きやすいのか従業員の入れ替わりの少ないのが俺の自慢でもあるので、バイトであろうとそれぞれに個人用のロッカーをあてがっている。
開けた先のロッカーからネイビーのコートが覗き、彼の付けているユニセックスな香水が香る。初めてこの香りを嗅いだ時、なんてセンスのいい香水を付けているんだと、と感心したものだが今は特に何も思わず渡された連絡先の書かれた紙を置いた。
貰った連絡先をどうしているのかは知らない。
ただ個人情報なので捨てるなら家に帰ってから捨ててね、とは伝えている。律儀に守ってはくれているみたいなので、やはり彼女はいい後釜を紹介してくれたみたいだ。
彼女に感謝しながらロッカーを閉めようとした時。
チラリと、色のついた真っ黒なビニール袋が目に入った。正式にはその中のモノ。DVD…俺にはすぐにそれがDVDだと分かった。
そして、一瞬にして背筋が凍る。
背表紙に見覚えがあった。
「こ、れ…」
無意識に独り言のように呟いて、そっと袋の口を開ける。人の物を勝手に見るなんて、それも従業員の私物を盗み見るとは上が知ったら問題行動どころの話じゃない。人としての品格にも欠ける。
十分に分かってはいたが指先が止まらない。カサッというビニール独特の音が嫌に大きく聞こえた。
ビニール袋から顔を覗かせたのは、いわゆるAV。18禁。
「………嘘だろ」
それも男同士のやつ。
なんなら俺、出演の貴重な1枚。
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