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「…これ…店長…?」
俺も男だ。AVだって見る。まあ見るのは男性同士のいわゆるゲイビデオだけどね。
何の気なしにネットで目に留まったものを見ていた時に、パソコンから聞こえた苦しそうな声に紛れた甘い嬌声に、全身が震えた。
聞き覚えのある声。
まさか、とは思いつつ意識してしまえばどこからどう見ても店長だった。
目だけはモザイクがかかっているが荒いモザイクだったし、鼻や唇はそのまま。首筋にあるホクロの位置まで一緒なのだ。俺があの人を間違えるわけがない。
なんで店長がAVなんかに出てるのかは分からなかったし、聞けなかったが問題はそこじゃない。
だって!
もしかしたら店長は男もイケる人かも知れないんだ!
いつもの調子で諦めるしかないと思っていたこの恋に一縷の望みが出てきた。この流れで俺も同性愛者だということをあの人に伝えて、あわよくば俺のことを意識して貰いたい。
調べるとDVDとしても発売されていて速攻で保存用と観賞用を手に入れた。
これをネタになんとか店長のことを探り出したかったが、長年培ってきた奥手スキルはなかなかのレベルにまで達していたようで行動を起こすまでに1ヶ月掛かってしまった。店長で間違いは無いと思うがもし違ったら…と思うと拗らせ過ぎた自分には直接聞き出すことは到底無理。
それならば、と俺は考えた。
意気地なしながらに知恵を絞った。俺はやる。今日こそやる。あの人に少しでも近づく為に…
いつも店長が連絡先を俺のロッカーに入れておいてくれるのを利用することにした。
俺は店長が出演していると思われるDVDを色の付いた袋の中に入れ、中身がチラリと見えるように口を少しだけ開けておく。
これで精一杯。
これ以上は無理だ。
もし店長が本当にこのAVに出ているならきっと気付いて反応してくる。出ていないなら、そもそもこんな少し見えた私物のDVDに反応はしない筈。何事もなかったようにロッカーを閉めるだけだ。
保身に走りつつも、俺にしては大胆な賭け。
店長ごめんなさい。
これはあなたへの罠 、です。
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