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彼女が焼き鳥を頬張った後、静かにビールを飲んでいた新人くんの方をチラ見した。 「新人くん?ああ、すごくいい子だよ。君がいい子居ますなんて言うから女の子紹介してくれるのかと思ったら、まさかの仕事のできるイケメンだったとはね」 「やだ、両方の意味での紹介ですよー!」 「え?」 「ブッ…!!!…ゴホッ!ゴホ」 近所のおばちゃんみたいに手の先をヒラヒラさせたかと思ったら、隣で新人くんがビールを吹き出した。変なとこに液体が入ったのかな。咳き込む彼の背中を慌ててさする。 彼女は笑いながら机に溢れたビールをお手拭きで吹いていた。 「も〜、なにしてるの?」 「大丈夫?」 「…だ、大丈夫でぇ〜す」 自分のおしぼりで口を押さえ絞り出すように笑う新人くんが、背中を丸めたまま下から彼女を睨む。 彼女は気にした様子もなく、またビールを仰った。 「なんだか酔ってきちゃったかも、私。でもこれからが本番なんでまだまだ行きましょうね!」 ーーー 時計の針が23時を超える頃。だいぶ出来上がった彼女は「そろそろ帰らないと彼が怒るので…」と何故か嬉しそうに笑って俺と新人くんを交互に見た。 時間も時間なのでタクシーを拾って彼女を乗り込ませる。真っ赤な顔でヘラヘラ笑う彼女が運転手さんにきちんと住所を伝えるのを確認してそっとお札を握らせた。 「ちゃんと支払いするんだよ、分かった?」 「あれえ、いいですよー!わたしお金持ってます!」 「いいから。じゃ運転手さんお願いします」 バタンと自動でドアが閉まり黄色のタクシーが俺たちの元から離れて行く。 俺の後ろで乗り上げ防止の円柱みたいな石のオブジェに軽く腰掛けて、顔色の変わらない新人くんは俺の足元を見ていた。 何か付いてるのか、と俺も足元に視線を落とすが何も付いていない。履いてきたダークブラウンの革靴は綺麗なままだ。やっぱりなんかおかしいよなあ。 「新人くんの家こっから遠かったよね。タクシー拾うからもう帰る?」 明日のシフトは俺も新人くんも休みだ。スタッフが優秀だから、店長である俺も休みに呼び出されることは滅多にない。心を落ち着けて休むことができる。 折角の休みだし男同士でもう一軒行くのもアリかと思ったが、終始目の合わない新人くん。…これはナシと見て間違いなし、か… 「…テンチョは?」 「………俺?」 「飲み足りなく…ないんスか」 タクシーが次々と入ってくる。彼の視線が俺の足元から移動する。酔っ払いのサラリーマン達が雪崩れ込むように入って行くのを見ているようだった。 新人くんめ…もしや君はツンデレか? 「飲み足りないに決まってるよ!次行こうか」 俺の言葉に(ようや)く、新人くんが顔を上げた。

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