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店主に熱燗を頼んだ直後、テーブルの上に置いていた携帯が震えた。 今日の昼から軽い携帯恐怖症に陥っている俺は大袈裟な程に驚いてバシンッと携帯を上から押さえつける。 「びっ…くりした、どしたんスか?虫でも居た?」 「い、居ない。居ない。携帯が…」 「電話?出ていいっスよ」 「あ、はい。はい。大丈夫」 「??……本当に大丈夫ですか?」 新人くんが俺の顔を覗き込む。押さえつけていた携帯がくぐもったマナー音を鳴らし続けて、俺の動悸が早くなっていく。 電話、誰?会社?んなわけない、こんな時間に。でも鳴り止まない。嘘だろ、また?昼に断った筈だ。もうしないって。ヨリを戻すつもりないって。 恐る恐る携帯を持ち上げ、隙間から覗くように画面の表示を確認。――やっぱり。 「ごめん、ちょっと。…失礼」 着信相手は俺が出るまで延々と掛けてくる。自分の電話に出ないことが癪なのだ。どこまでも俺様気質。…まあ相手は女性だけど。 席を立って店の奥のトイレに走ろうとしたが、足が覚束ない。完全に飲み過ぎた。禁酒していた反動で酒が美味し過ぎたんだ。 なんとかトイレの前まで辿り着き、一向に鳴り止む気配の無い携帯を耳に当てる。 震えが止まった携帯の向こうで、やけに色っぽい声が響いた。 『なにやってんのよ、あたしの電話には10秒以内に出なさい』 「………俺はもう君のペットじゃないんで」 『口答え?躾けた意味がないじゃない。そんなに低脳だったかしら』 「…なんの用ですか」 電話越しに聞こえてきた声は、俺にAV出演というトラウマを植え付けた張本人である元カノだった。昼間に掛けてきたのもこの女だ。 別れて以来音沙汰がなかった癖に今更何の用かと思うだろ?聞いた時ほんとに何の用だと耳を疑った。 『売れるチャンスよ?あんただって気持ちよさそうにしてたじゃない。プロに抱いて貰えてお金も入るんだから悪いことなんて何一つないと思うけど』 「悪いことしかないです。そっちの道を目指すつもりはありませんし…お金にも困ってません」 『折角ネットで話題になってるのに』 「……マジで訴えますよ」 『生意気言ってんじゃないわよ』 「………」 元カノの用事とはAV…すなわちゲイビにまた出演しないか、とのお誘いだった。出演しないか、じゃない。出演しろ。命令だ。 なにやら最近ネットで流れて今少し話題なっているらしい。ガチ素人が複数の男優に囲まれ反抗しつつ最終的には絆されていく様子が(そそ)る、と。 俺だけじゃない。同じような状況で犯される他の素人の映像のまとめみたいなやつでネットに上がっているらしい。というか本当に素人なのは俺だけじゃないだろうか。 ありきたりなシチュエーションだし、どうせすぐ廃れる話題性だが、元カノがこれに食いついた。第二弾を出そうというのだ。

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