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「本当に、俺はもうAVには出ません」
『…そう。じゃあヨリを戻しましょう。どうせあなたのことだから、最近ご無沙汰でしょう?』
「ご無沙汰じゃないです…も、もう新しい相手も居るし、ヨリは戻しません」
『誰よ、相手って。あたしよりいい女がいるとでも?』
「………いますよ。今一緒に飲んでるんで、もう切りますから」
『じゃあ電話代わりなさい。じゃないとまた掛けるわよ。どうせ相手がいるなんて嘘なんでしょ?明日、あたしの家に来なさい』
「は!?嫌です、ヨリ戻さないって言ってるじゃないですか…!」
ヨリなんか戻してみろ。また上手いこと言いくるめられてゲイビに出演させられるに決まってる。分かりきってる。
トイレの前で言い争うように電話をしていたら、心配してくれたのか新人くんがこちらに向かって歩いてきていた。やはり全然酔ってないのかしっかりした足取りだ。
対して俺はというと、飲み過ぎたせいなのかトラウマと電話をしているからなのか少々気持ち悪い。早くこの電話を切り上げてトイレに駆け込みたい。胃がグルグルして気持ち悪い。もう歳だ。二軒目を揚げ物にしたのがまずかったのか。
「………っ、じゃあ!恋人に代わります!恋人がゲイビに出るなんて許さないって言ってるんで、AVもヨリを戻すのも無理ですから!」
叫ぶように言い切ると目の前に来た新人くんの胸に携帯を押し付ける。
驚く彼の耳元で小さく「ごめん、上手いこと話合わせて」と囁いて俺はトイレに駆け込んだ。
ーーー
トイレの扉を思いっきり閉めたところまでは覚えている。
が、その後の記憶がない。トイレで吐いたのか、我慢したのかどちらか分からないが、俺は今、自宅の部屋のベッドの上に居る。
「………なぜ…?」
見上げる天井も布団の感触も俺の部屋だ。目は腫れているみたいで瞬きをするのが重い。
サイドテーブルには見覚えのあるシルバーカラーのスタンダードな目覚まし時計。時間を確認すると11:48。昼前だ。
カーテンから日差しが差し込む。目をこすり、とりあえず起き上がろうと上半身を起こすと下半身に鈍い違和感を覚えた。
なんだ。この違和感。どこかで感じたことがあるんだが、どこだったっただろう。
まあいい。酒に酔って気付くと知らないベッドの上、なんてシチュエーションにならなくてよかった。自宅にいるということは新人くんがここまで運んでくれたんだろうか。
この歳になってまで記憶が無くなるまで飲むなんて、賢い飲み方とは言えないな…
一緒に飲んでいたのが女性だったら、危なかったかもしれない。手を出していたらとんでもないことになっていた。
朝から安堵の息を吐き布団をめくる。
「………」
吐いていた息が止まった。
人がいる。が、心配していたような女性じゃない。男だ。男だけど…
なんで裸?
ていうかこういうのドラマで何度も見たことある。
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