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「し、………新人くん……?」 恐る恐る呼び掛けると、俺より明るい茶髪が揺れる。キューティクルが浮かぶさらっさらな髪の毛が薄っすらと開いた幅広な二重に重なる パチ、と目が合った。 見上げられる俺と、見下ろされる彼。 「あ、おはようございまーす。いい朝っスね〜」 新人くんはまるで出勤した時のような挨拶を口にしてサッとベッドから体を退けた。 「お、はよう…ございます。え?…あの、これは一体どういうことでしょう」 「さあ」 狼狽える俺に新人くんはつれない態度で返事を返すと脱ぎ散らかされた服を手に取り着替えていく。ふと、動きを止めるとこちらをチラリと見た。 「なんにも、覚えてない?」 「…恥ずかしながら」 冷や汗が出る。冷静になって周りを見渡せば俺の服も脱ぎ散らかされてもちろん俺自身も裸。違和感のある腰。 飛び跳ねるようにベッド脇のゴミ箱を覗くと昨日までは無かった半透明の使用済みゴムが…複数個。 ――嘘だよね? 「そういうことですよ」 ゴミ箱を確認して青ざめる俺に状況を理解したと分かったのか、新人くんが嫌に冷静な声で呟いた。 え、なに?もっとチャラついてよ。なんでそんな神妙な面持ちしてるの。いつものようにヤッちゃいましたね〜!なんて茶化してくれよ。 ヤッちゃいましたね〜、って…なんで俺らヤッちゃってるんだ? 「じゃあ俺帰ります。昨日はご馳走様でした」 新人くんがネイビーのコートに腕を通し鞄を持ち上げる。愛用の黒いマフラーで口元を隠すと、玄関まで歩いていく。 「………」 なんと声を掛けていいのか分からず、呆然とする俺に一度玄関まで行った新人くんの足が止まったかと思うと、クルリと体の方向転換をさせて再びこちらに戻ってきた。 「あの、新人く…」 呼び掛けると同時に新人くんが俺の体に腕を回し、それはもうキツく強く――抱き締められた。 艶々したコートのサテン生地が直接肌に触れて冷たい。暖房が切れていたのか温かいのは顔まわりに触れる黒のマフラー。カシミアか? 現実逃避に違うことを考えていた俺の耳元で彼が静かに囁いた。 「約束は、守ってくださいね」 新人くんが体を離す。マフラーで覆われた顔はよく見えないが、唯一露出されている目元がほんのり赤い。泣いてる、の? 「………は、はい…」 訳も分からずとりあえず頷く。顔を背けたまま新人くんは俺の頭を恐る恐る撫でた。約束って何を約束したんだろう。給料アップとか?俺、雇われだからそんな権限ないんだけどな… 彼は俺とは視線を合わすことなく、そのまま部屋を出て行ってしまう。 残された混乱中の俺が最初にしたことは、ゴミ箱に捨てられた使用済みのゴムを数えるなんていう無意味な行動だった。 この場合ゴムを付けたのは彼で間違いないのか?じゃないと俺の腰が痛い理由の説明がつかない。となるとゴムを付けてくれたことに感謝するべきなんだろうけど…でもこれ多分俺の持ってたやつだよね? もしかして俺が自分で出してきた…? ハテナマークが次々と浮かんでくる。もちろんいつも通り納得できるような答えは出ない。 「……なんにしたってヤバすぎるでしょ…」 従業員に手を出してしまった罪悪感と、セクハラで訴えられたらどうしようという後悔の波に襲われる。 お願いだから、 誰か夢だと言ってくれ。

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