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新人 side.
AVトラップを仕掛け、まんまと掛かった店長になんのアクションも起こす事が出来ず数日が経った。
店長が男に抱かれても大丈夫な人だと分かったはいいものの、ここからどう攻め混んでいけばいいのか分からない。
あまりグイグイ行って嫌われるのも怖いし、そもそも6歳も年下の大学生は果たして恋愛対象内なんだろうか。
十数年と積み重ねてきた奥手スキルと片想いの歴史が、踏み出す足に足枷をしているようだった。
「はあ…」
店長がお昼休憩のタバコタイムから帰ってくると、大きな溜息を吐 いているのに気付いた。今日はいつもより外に居る時間が長かったし、何かあったのかもしれない。
どうかしたんですか?って言うんだ。話なら俺が聞きますよって誘え!絶好のチャンスじゃないか!
しかし、俺が店長に声を掛けることができたのは店が暇になった夕方だった。
ーーー
『なんで私もいくのよ!折角誘ったのに2人で行かないと意味ないでしょ!』
「そういうのいいから、つべこべ言わず来てよ」
『年上に向かって何その態度。結婚式呼んであげないわよ?』
「別にいいよ?そしたらご祝儀渡さないからぁ」
『出っ…た!……もう素直に2人きりじゃ恥ずかしくて話が弾むかどうかも怪しいからついて来てって言ったら?』
「ついてきてください」
『……はあ。その奥手過ぎるのどうにかならないの?それさえ無くせばいくら相手が男だからって意外とイケたりすると思うんだけど』
俺が店長と出会うキッカケを与えてくれた女友達が電話越しに呆れた声を漏らすが、イケるわけがない。こいつ甘過ぎる。同性同士がいかにハードルが高いか…下手すれば築き上げてきた関係がゼロを通り越してマイナスになるというのに。
「ドレスって色何が似合うと思います?」
面白くない。
なんとか言いくるめて店長との飲みに連れ出したはいいものの…何がドレスの色だ。どうでもいいことを店長に聞くなよ。
一緒に飲めるのは嬉しいし、天にも昇る心地だけど店長が笑い掛けるのは目の前の友達だ。全くもって面白くない。
かと言って俺は緊張し過ぎて相槌を打つのに精一杯だし、情けさすぎる。体鍛えてる暇あったらメンタル鍛えろよって話だよな。はあ。
「やだ、両方の意味での紹介ですよー!」
しかも酔ったあいつがツルッと口を滑らせる。酔うと口が軽くなるのを忘れていた。でも噎せて咳き込む俺の背中を店長がさすってくれたから…うん…良しとしよう。今回だけは見逃してやる。店長から触って貰えるなんてビックリだ。本当に優しい。好きだなあ…
楽しいのに複雑な気分で酒を飲み交わす。時間はあっという間に経っていった。友達が自分の旦那のことと俺のこと両方に掛けて「彼に怒られる」なんて茶化すもんだからもう二度とこいつには店長との事は頼まないと、胸に誓う。来てくれたのはありがたいが正直面倒くさすぎる。
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