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酔ってグダグダな女友達にしっかりとタクシー代を渡す店長を大人だな、と尊敬の眼差しを向けた。優しい上に社会人としても完璧なんて…俺の目はやっぱり正しい。 「新人くんの家こっから遠かったよね。タクシー拾うからもう帰る?」 タクシーが走り去る姿を見届けると、店長は俺の方を振り向いてそんなことを言った。2人っきりなんて間が持たないと不安がよぎり思わず頷きそうになったが、それでいいのか、と思いと留まる。 こんなチャンスもう二度とないかも知れない。幸い酒には強い方だったから意識もしっかりしてるし、逆に店長は結構酔ってる。何に悩んでいるのか話をしてくれるかも知れないし、もしかしたらAVの話も聞けるかも知れない。 バクバクとうるさい心臓を押さえつける。 「テンチョは?…飲み足りなく…ないんスか」 俺は何とか勇気を出して二軒目へのお誘いを口にした。 ーーー あーーー!!最悪だ!最悪最悪最悪! 店長がまさか女友達のことを好きだったなんて!羨ましい…なんて羨ましいんだ。確かに店長のことが好きだとバレた時もあいつは引かなかったし、性格がいいのは認める。唯一こんな話が出来るのもあいつだけだ。だけど!まさか!最悪! 過去の片想いの話を聞いて俺は飲んでいた日本酒を煽った。無性に腹が立って大根に恨みを込めて箸を入れる。さり気なくミラーリング効果を期待して、俺は店長と同じものしか頼んでいない。果たして効果があるのか。 もうだいぶ酔いが回ってる気がする店長が熱燗を頼んでまだ飲むのか…と心配していると突然携帯が鳴った。目を見張る速さで携帯を潰すかの如く上から押さえつけている。壊れるんじゃないかと思うほどの強さを感じるんだけど、何事? 顔を覗き込むと先程まで赤かった頬が白い。真っ青とも言う。 「ごめん、ちょっと。…失礼」 突然の変わりように驚くが、店長はフラフラしながら店の奥に消えていった。 誰からの電話? 気になって仕方ないけど、プライベートに口を出せる関柄ではまだ…ない。 不用意に踏み込むのは嫌われる危険性があると、拳を握り締める。 誰からの電話なのかも躊躇って聞けない関係。どうしたらこの関係を進展させることができるんだろう。

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