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どんどん落ち込んでいく。
店長が頼んでいた熱燗を店員に手渡された。あの人日本酒好きなんだろうか。熱々の熱燗を店長の座っていた席の前に置きながらぼんやり考える。
帰ってきたら聞いてみるとして…遅くない?だいぶ酔ってるみたいだったけど、トイレで寝てたりしないよね?
大学の友人と飲んでいると、羽目を外して飲み過ぎてトイレに立て籠もる友人がたまにいる。店長はしっかりしてるし大人だしそんなことしそうにないけど、心配だ。念の為、見に行こう。
店長が消えていったトイレへ向かうと、壁にもたれかかるように未だ誰かと話し込んでいた。
声を荒げる姿なんて初めて見る。俺の存在に気付いたのか一瞬だけこちらを見上げたが、来るなという動作をしてこないので近くまで近寄るとドンッと少々乱暴に携帯を渡された。
聞き間違いでなければ「恋人に代わる」「AVもヨリを戻すのも無理」と聞こえたんだけど…
どういうことか詳細を聞く前に店長はトイレに駆け込んでしまったので、仕方なく通話中の携帯を耳に当てる。
「…もしもし」
『あら、男?なによ、無理って言っときながら男に目覚めちゃってるじゃないの』
「だれ?」
随分と色気のある声だ。電話相手は女性だったのか。
『その携帯の持ち主の元カノよ。ヨリを戻すから彼女になるけど。あなたその人と別れてくれる?』
「は?」
『やめたほうがいいわよ?その人。ゲイビに出演して無理矢理されてるのに善がっちゃう変態なんだから。そんなの相手にできないでしょ』
「…変態」
『そう、あたしがあの人の開発をしたの。…あなたどっち?ネコちゃんなら無理よ。彼、淫乱だから」
「………」
はあー、なるほど。それで恋人に代わるなんて嘘をついたのか。初対面の相手にベラベラと良く喋る女。どうやらゲイビ出演はこの女が関係してるみたいだ。
店長の口ぶりからしてゲイビ出演とヨリを戻すことを強要されて困っている、と。あの怯えようからすればそんなところか。
――なるほどねえ。
「…淫乱なんて最高じゃなですかァ。渡しませんよ。ゲイビにも、もう二度と出さない」
『…あたしの言ってる言葉わかる?別れなさいって言ってるの』
「どうして?彼が他の男に抱かれるのをみすみす黙って見てる必要ある?…一度は手離した癖に…引っ込んでろよクソアマ」
『なんですって?』
「アンタの入り込む隙間なんてこれっぽっちもないから。二度と電話してくんな。次またこの人に電話してきたら……殺すぞ」
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