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低音で静かに呟くと電話の向こうで一瞬息を飲む音が聞こえて、チッと大きな舌打ち。すぐに耳障りな笑い声が聞こえてきた。 『随分可愛い脅しね!犯罪者になるっていうの?そんな人の為に』 「ええ、最高に有意義でしょ?」 『……面倒くさ。勝手にやってなさいよ。ちょっと売れそうだったから声掛けてやったのに。なに本気になってんの?気持ち悪いのよ』 捨て台詞を吐き捨てて、携帯が切れた。 やだな、もう。俺としたことがつい熱くなって低レベルな会話を繰り広げてしまった。自分が貶されたことより、店長を下に見た発言ばかりで膓が煮えくりかえりそうだった。そんな人の為にって、何言ってるんだろう。 俺にとっては唯一無二の大切な存在なんだ。 たかが恋だと笑うか?何に重点を置いて生きていくかなんて、人それぞれだろ? お酒のせいで気が大きくなっていたのか、今しがた切れた電話番号を勝手に着信拒否に設定した。 本当は消してやりたかったけど店長にあの女との関係を正確に聞いたわけではない。そこまでするのはさすがに躊躇する。…俺の躊躇する基準はおかしいのかな。 ーーー 「あいつ…っ、俺のこと嵌めてゲイビに…!」 「そっかあ、やっぱりあの人の所為だったんだね」 「俺は嫌だって言ったのに、男優に押さえ込まれて…先に色々されてたから感じたくないのに…感じちゃって」 「うんうん…仕方ないっスよ。男だもん。気持ちいいと逆らえないよねェ」 「しかも今やその汚点がネットにも上がってるって…うう…生き恥だ…」 「……お茶、飲んでください」 その生き恥を見つけたお陰で俺は店長への恋心を加速させることになったんだけど。さすがにこの場では言えない。 トイレから出てきた店長はリバースしてスッキリしたのか少しだけ顔に色が戻っていたが、子供みたいにえぐえぐ泣いていてギョッとした。 「切れた?」「はい、もう電話してこないって」「本当に?」「着拒にしたんで掛けて来られないと思いますよお」という掛け合いの後、俺の言葉に安心したのかその場にうずくまると小さな声で「……もう帰ろう」と呟く声が聞こえた。 俺の家より店長の家の方が近いらしく一人で帰すのも不安だし、俺の服を掴んで離さないしで初めてのお宅訪問となった。どうしよう、鼻血が出そうなくらいときめくんだけど。 ソファーに腰掛けてコンビニで買った温かいお茶を手渡す。小さなペットボトルを片手で握り締めて店長はティッシュで鼻を噛みながら事の顛末を涙ながらに教えてくれていた。 まるでエロ漫画で見るような展開だったが、現実にそんなことをする奴がいるなんて。 しかも店長が餌食になって本当に腹立たしいというか、ご馳走様というか…ご馳走様は違うか。間違えた。

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