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「し、………新人くん……?」 目を覚ますと店長が上から俺を見下ろしていた。明らかに驚いてる。何故ここにお前が。そんな表情だ。 やっぱり忘れてるよね。状況全然理解してないっぽいし。あーあ。完全にヤリ捨てフラグ。食うより食われた感強いし捨てられる前に先に姿をくらまそうかな。バイトも辞めて、女の子もいけるように無理矢理誰かと付き合ってさ。同性愛者向けの風俗にでも行こう。 やっぱり俺は好きな人と、本当の意味では一緒になれないんだ。 店長も酷いよねえ。あんなに気持ちよさそうにしてくれてたのに、起きたらスッパリ忘れてるなんて。 『あっ…やばい…な、にコレ…っこんな』 とっととこの場から立ち去ろうと玄関まで歩いていた俺の脳内に、昨日、俺の下…ではなく上で乱れていた店長がフラッシュバックで映し出された。 『ん、待っ……アッ、ああ』 気持ち、いい……ですか?店長 『う、んんん…!、や』 言ってください。気持ちいい、て。男に抱かれて、気持ち良くなっちゃってるって 『違う…っだって、男なんかに…!』 ……分かってます…プライドが許さないんですよね?じゃ、あ…じゃあ気持ち良かったらイッてください。俺の咥えたまま、……イッて? 「………」 店長がイクと同時にキツく締め付けられた感覚をリアルに思い出して、股間に痛みを感じた。ああ、やばい。勃ってる… 思えば好きな相手とセックスできたのはこれが初めてだ。今までは同性の俺なんて無理だと、初めからたかをくくって行動をおこさなかった。だから当たり前と言えば当たり前なんだ。 初めから終わりまでドキドキして、手が震えて、もし肝心なところで勃たなかったらどうしようとか色々考えて大変だったけど、煽ってくる店長に俺の理性が笑っちゃうぐらい機能しない。もう無我夢中だった。 ご無沙汰だと言っていた癖に、あんなに後ろで喘げる店長が本当に男が無理なのか…? 覚えてないかも知れないけど約束もしたんだ。感じちゃったら付き合ってくれるって。 ――利用しない手はないんじゃないの? まるで悪魔の囁きのように、とろりと甘い言葉が落ちてくる。 くるりと踵を返すとぽかんと口を開ける店長を抱きしめた。体の至る所に俺の付けたキスマークがあることに気付いたら彼はどんな反応をしてくれるだろう。 「約束は、守ってくださいね」 いつかはこの手で抱き締めたいと願っていた。それがどうだ。今、実際に抱き締められているじゃないか。折角できた繋がりと、この体を自ら手離す必要なんて、あるの? 「………は、はい…」 きっと意味なんて分かってない。だって覚えてないんだから。 それでも素直に頷く店長に目頭が熱くなった。 この気持ちはなんだ。興奮か?後悔か?それとも――罪悪感か。 手離したくない。一夜の過ちなんかにはしたくない。奥手な俺に舞い降りた奇跡の一夜。大切に大切に。 大切に、利用してもいいですよね? end. (続くかも)→続きます

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