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大正14年7月19日、雨
(この日まで、使用人のミツと主人の零一は月に一度の逢瀬をしていたようだ。日記には、その様子が表情豊かに書かれている。転機が訪れたのは、大正14年7月19日のことだ)
朝から雨が降っている
恵みの雨だと、僕は信じたい
芳子様がご懐妊された
最近、お加減を崩されることがあり、お医者様に診てもらうと、妊娠3ヶ月であることが分かった。
一時、零一様と芳子様の不和が噂されていたが、それを吹き飛ばす良い知らせだった。
気の早いメイドなどはもうお子様の服を作っている。
予定日は2月の初め頃らしい。
零一様も芳子様もお祝いの言葉を言いに来た方々に応対されていた。
使用人の僕らも、お客様の対応に追われて忙しかった。
今夜、一ヶ月に一回の逢瀬の日だった
いつの間にか着ていたもの脱ぎ捨てられ、生まれたばかりの姿になり、絡み合いながら愛し合った。
「んぅ……っ零、あっ……」
「ミツ……可愛い……ミツ……」
ゆっくりと穏やかな交わり。
お互い欲を吐き出して、僕と零一様はぐったりとしていた。
「良かったですね……赤ちゃん……」
「あぁ……私と芳子と、ミツの子供が出来た」
「……またそんなこと言って」
僕は零一様に背を向けて横になった。
少し恥ずかしかった。
「もうあの薬は、使ってない?」
「月に一回会えるって分かったら、安心して眠れるようになりました」
あの薬は机の引き出しにしまってある
もう使うことはない
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