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春・ポチくんの憂鬱/弁護士×高校生

■この話には別シリーズ「溺愛シンドローム」のキャラが登場します   『ポチ君』 十七歳の高校生・(なぎ)にはお付き合いしている人がいる。 『へぇ、ポチ君かぁ。カワイイなぁ』 砂浜で愛犬を散歩させていたら、ひょんなことから出会った、そのお相手。 『俺ってこう見えて優しいんだよ?』 三十路半ばで一回り以上年上で。 『ある人の後見人をしてたんだけど、その人が亡くなって、その人の財産を整理しなくちゃならなくて』 弁護士をしていて。 『ね……卒業したらさ……俺の事務所へおいで。毎日セクハラしてあげるからさ。ね、お願い、ポチ君。約束』 普段は伊達眼鏡と高価なスーツで捕食者属性の本性を取り繕い、オフになればダークスーツに黒光りする革靴で完全に「その筋の人」にしか見えなくなる男。 『も、イッちゃうよ、ひぐらしさぁん……っ』 『ん、一緒にイこうか……ポチ君……』 スケベな年上彼氏の(ひぐらし)にセクハラ三昧な日々を強いられながらも、惜しみない愛情をどぷどぷどぷどぷ注がれて時に過剰摂取にあっぷあっぷしながらも。 凪は蜩のことを尊敬していた。 かっこいいと、憧れた。 好きだった。 しかしこれはあんまりではないだろうか。 「ひ、蜩さん、何してるんですか……?」 そこは蜩の住むデザイナーズマンション。 真夜中、寝室の扉の隙間に見えた光景に凪は立ち竦んだ。 別の誰かとベッドを共にしていた蜩。 肌触り抜群な羽毛布団の向こうに相手の剥き出しの肩が見えている、つまり上半身は確実に裸、ということは……。 「ひどいです、蜩さん」 ありふれた色に染められた髪、チェック柄のネルシャツにカーゴパンツを履いた細身の凪は年上彼氏の浮気現場に居合わせてショックの余り涙ぐんだ。 未だかつて経験のない緊急事態に途方に暮れていたら。 「本当ひどいですよ」 凪の背後から明らかに不機嫌な声が、した。 緊急事態発生より数時間前、凪は蜩と週末の夜桜見物へ出かけていた。 「これ、休日出勤扱いですからね、蜩さん」 人気スポットの場所取りとして二人より先に来てお花見の準備を抜かりなく整えていた蜩の部下、シンジ。 二人きりの弁護士事務所で上司によるパワハラ・セクハラなどどこ吹く風でクールに働く有能スタッフだ。 「これ、とりあえず領収書です、どうぞよろしく」 「白ワインは俺からのプレゼントな、カナカナさん」 短髪塩顔、二十七歳のシンジの隣には連れがいた。 「よぉ、なぎっち、相変わらずポチポチしてんなぁ」 金髪鼻ピアスという、見るからにヤンチャな外見をした連れの名は黒埼六華(くろさきろっか)といった。 弁護士事務所とは真逆である闇金事務所で支配人の兄の元せっせと働く二十二歳の青年。 見た目は少々おっかないし素っ頓狂な言動にぎょっとすることも多々あるが、飾らない、ピュアと言っても過言でないくらい真っ直ぐな性格の持ち主だった。 「サッキーだぁ、久し振り!」 「なぁなぁなぁなぁ、すっげぇイイ場所確保できたと思わん?」 「うんっ、この桜、この公園で一番おっきいね!」 「黒埼君に周りの方々が遠慮してくれたというか」

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