60 / 611

春・ポチくんの憂鬱-3

やっちまった。 春の夜の昂揚感に誘われるがまま、いつになく深酒し、さっと風呂を済ませてベッドに横になれば今週の疲労がどっと押し寄せてきて。 蜩はあっという間に眠りに落ちた。 リビングから聞こえてくる三人の話し声を子守唄にして。 それが不意に、深夜、目が覚めた。 ベッドへ潜り込んできた誰かの気配。 年下の恋人が甘えにやってきたのだろうと、まだ覚束ない意識の中うっすら笑い、寝返りを打って深夜の客人を歓迎した。 「どうしたの、いつもより大胆だねぇ……?」 そう、大胆過ぎた。 高校生で初心な凪が、知り合いと共にお泊まりしている状況で、こんな風にベッドを訪れるわけがなかった。 まだ多少酩酊感を引き摺る蜩は上機嫌で彼を抱きしめた。 そして、紛うことなき、違和感。 あれ。 たった一晩で、凪、いきなり成長した……? 「ん~~~……兄貴ぃ~~~……」 あ、やば。 凪じゃない。 このコは。 「ひ、蜩さん、何してるんですか……?」 「本当ひどいですよ」 不機嫌そうなシンジの声がしたかと思えば、パチリ、部屋の明かりが無情なまでの全開ぶりで点けられた。 ベッドには急な点灯に眩しそうに目を細めている蜩と。 自宅だろうと余所様のおうちだろうと脱ぎ癖がある六華が。 寝室の出入り口にはより鮮明に浮かび上がった光景に絶句している凪と。 冷え冷えと笑うシンジの姿が。 「黒埼君、起きて、寝惚けないで。その人お兄さんじゃないから」 過剰なブラコンの気がある六華の元へシンジは迷わず歩み寄った。 「えーと、シンジ、一応言っとくけど未遂だから?」 「こんなときにそんな冗談よくかましていられますね、蜩さん」 「いや、冗談じゃないし」 「うーーーーーん……このベッドはふっかふかだけど、もちょっと硬めの方がい……しんちゃんちのベッドがい……」 「今すぐにでも俺のベッドに持ち帰りたいよ、黒埼君、一先ずベッドから、」 そこでシンジははっとした。 寝室の出入り口に立ったまま途方に暮れている男子高校生を改めて見やった。 六華の褐色背には刺青が彫られている。 それはそれは鮮やかな牡丹が常に開花している。 「ちょっと待って、やっぱり起きないで、黒埼君」 「えっ……? シンジさん、えっと?」 凪にはまだ刺激が強すぎると踏んだシンジ、深夜、床でぐーすか寝ていたはずの恋人がいなくなっていたことに気づき、瞬時に覚醒した彼は冷静な判断を下した。 「ちょっと寝室から出てくれるかな、凪君」 え。それって。 どういう意味。 まさか、もしかして。 さ、三人でえっちなこと……?

ともだちにシェアしよう!