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迷いうさぎはさみしがり/オッサン×キュンカワうさぎ/美形×平凡臆病うさぎ/擬人化
「そろそろ帰るか」
夜十時前、国立大学医学部病理学研究室にて。
一度とりかかると手が離せない実験工程が完了し、技能スタッフとその助手は半分明かりを消した実験室片隅で帰り支度を始めた。
「久々に飲んでくか、焼き鳥か鉄板か、空いてる方」
三十六歳、手つかず黒髪にぶしょーヒゲの多岐 、しばしクリーニングに出していないしわくちゃの白衣を無造作に脱いでロッカー内のハンガーに雑にかけた。
「多岐さん払いでしたら喜んで」
二十七歳、そこはかとなく漂う甘爽やかオーラ、学園祭のイケメン調査アンケートで連続一位をとっている降矢 、ぱりっと糊の効いた真っ白な白衣をきちんとロッカーに仕舞って静かに扉を閉じた。
「たまにはソッチが奢れ、こっちはタバコ代が馬鹿にならねーの」
「今年こそ禁煙したらどうです」
「んー」
気のない上司の返事に降矢は小さく笑い、ショート丈コートのボタンをかけ、マフラーを巻き、実験室の鍵を携えて廊下への扉をがちゃりと開いた。
ごんっ
「え?」
何かが当たった感覚に降矢は目を丸くし、後ろでダウンを羽織りつつ進んでいた多岐は矢庭に立ち止まった部下の背中にぶつかった。
「うお、何だよ?」
「今、何かドアに……、……見てください、多岐さん」
「あ?」
冷気が沈殿した消灯済みの廊下。
非常口の光にぼんやり照らし出されて、何やら、もぞもぞ動くものが。
「うさぎじゃねーか」
多岐も降矢も驚いた。
それはそれは小さな小さなミニうさぎが二匹、冷え切った廊下の片隅で身を寄せ合って、ちょっこん蹲っているではないか。
「前に野良猫がうろついてたことはあったけどなぁ、うさぎかよ。マウスならまだしも」
「動物実験棟から逃げ出してきたのかな」
「いや、今うさぎは飼ってねーハズだ。にしても。ちっせぇなぁ」
小さなミニうさを二匹一緒に多岐が拾い上げてみようとすれば、一匹、ぴょんっと逃げた、多岐は深追いせずにそのまま一匹だけ両手で掬い上げてみた。
かわいい。
すごくかわいい。
片手いっぱいでおさまりそうなサイズだ。
大人しく掬い上げられらたうさぎは鼻をヒクヒクさせ、黒目がちの潤んだ双眸で多岐をじっと見つめてきた。
見つめられた多岐はオッサンらしからぬ胸キュンに襲われて自嘲した。
「どえらい別嬪じゃねーの、お前」
一方、多岐の手から逃げて震えていたうさぎだが。
オッサンとは違って俊敏な降矢にいとも簡単に捕まってしまった。
「君がドアにぶつかった方だね、痛かったね、ごめんね」
手の上で逃げ惑っているうさぎに降矢は至近距離から微笑みかける。
美形スマイルに、怯えていたうさぎは、どきっとする……。
「多岐さん、このコ達、どうしよう」
「お前動物飼ったことある?」
「ないです」
「俺もだ、でもな、今俺の飼育欲求がありえねーくらい高まってきてやがる」
「俺もです、このコ、お持ち帰りしたくて堪りません」
大学内に迷い込んでいたミニうさぎをそれぞれ自宅へ拾って帰ることにした多岐と降矢。
一時間後、二人は目を疑う光景に出くわすこととなる。
「タキ……」
風呂から上がって1LDKのリビングに戻った多岐の視線の先には。
世にもかわいいミニうさぎの姿から本来の姿に戻った彼がいた。
「おれを……ひろってくれて……ありがと」
満遍なく滑らかな裸身に多岐のフードパーカーを羽織って、床の上に足を崩して座り込んで。
さらさら黒髪越しに覗く黒目がちのうるうる双眸。
頭には、まっしろな、兎耳が。
一方、その頃、降矢宅では。
「ご、ごめんなさい、びっくりさせてすみません」
買い忘れていた牛乳をコンビニで購入してワンルームの自宅に降矢が戻ってみれば、ブランケットにぐるぐる巻きになった彼が半泣き状態で灰色兎耳をぺったんさせて蹲っていた。
「おれね……うー族……」
「お月様からおっこちて、おれと、おにーちゃん」
「おとーと、いっしょ、ぐるぐる……あっちこっち、してたら……タキ、ひろってくれた……あったかかった」
「か、かってに食パンたべました、すみませんっ」
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