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迷いうさぎはさみしがり-2

翌日、実験室で顔を合わせた多岐と降矢は揃って口を開いた。 「なぁ、降矢」 「多岐さん」 「うー族って一体何だよ」 「お月様から落ちたって。どういう意味かわかりますか」 「あの兎耳ガチで頭から生えてやがった」 「俺、本当はコンビニからの帰りに交通事故にでも遭って死後の世界に来たのかと思いました、一瞬」 お互い、持ち帰ったミニうさぎの正体を確かめ合い、ありえない展開に一睡もできていなかった二人はやっと人心地ついた。 「本当に月には兎がいやがったんだな」 淹れたばかりのブラックコーヒーで頭をすっきりさせた多岐、試薬や備品でとっちらかった実験テーブルに片頬杖を突いて苦笑した。 「……おかえり、タキ……」 その日、定時に仕事を切り上げて帰宅すれば彼に出迎えられた。 名前は、ねむ。 瑞々しく整った顔立ち、外見的な年齢は16、7歳といったところか。 「なぁ、月ってどんなところなんだ、そもそも酸素ないだろ」 「……むつかしいこと、おれ、わからない……おとーと、なら、わかるかも」 「飯はどーしてんだ」 「……レゴリス、たべる……」 「急に何か専門用語出てきたな。あの姿には自由に戻れるのか?」 多岐がそう問えば。 目の前でねむはミニうさぎの姿に戻った。 自分のパーカーにうずもれていた彼を多岐はそっと拾い上げてみる。 俗に言う胸キュンをこの年になって痛感するなんてな。 こーいう気持ちをもっとちゃんと感じとれてりゃあ、ひょっとして離婚も免れてた……のかどうかは神のみぞ知る、か。 「うお」 ソファに下ろされるなりねむは人型に戻った。 多岐は慌てて床に落ちていたパーカーを艶めく裸身に纏わせ、自分の慌てぶりにはたと我に返り、失笑した。 見てくれがいくらよくても相手は野郎だ、慌てる必要ねーだろ。 「さて。レゴリスとかじゃねーが、飯つくるか、何があったか……」 ソファから立ち上がろうとした多岐の膝にねむの頭がこてんと落ちてきた。 「タキ……なんでいつもひとり、するの」 膝枕を強請られて、そう問いかけられて、多岐は肩を竦めてみせた。 「仕事だ、大学行って教授らのために毎日せっせと実験しちゃあ結果出してんだ、論文仕上げるための社畜扱いだ」 「……ひとり、さみしい……」 「そうか。じゃあポケットにでも入れて連れてってやろーか」 もぞもぞ丸くなって兎耳を畳んだねむは目を閉じて頷いた。 「タキの、ぽけっと、おれのおうちにする……」 ……やばい、今のこいつに胸キュンはさすがにねーだろ、おい。 「あの、すみません、ふるふる」 「うん……? どうしたの?」 「おれ、ソファでいーです、いっしょにベッドで寝るの、きんちょーするから」 「ん……ワガママ言わないの……」 「ひっ」 セミダブルベッドで同衾を強いられてとても眠りにつくことができなかった、ねむの弟、るぅた。 なるべく端っこに身を寄せていたら、寝返りを打った降矢に背中から抱きしめられて、さらにド緊張した。 「はぁ……るぅたの抱き心地、最高だね……」 頼んでもいない新品もこもこウェアを着せられたるぅた、優れた容姿が多いうー族の中で平々凡々な顔、兄のねむとは似ても似つかない。 美形イケメンは見慣れているはずだが。 人間の降矢には気後れして、どきどき、あせあせ、してしまう。 このむりやりな感じ、すごく、困る。 おっとりのんびり優しい月のみんなと違う。 ちょっと怖い……。 「ん……るぅた……」 「ひ……っ」 寝かかっている降矢に耳元で囁かれて胸キュンどころか心臓発作を起こしそうになる可哀想なるぅた、なのだった。

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