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迷いうさぎはさみしがり-3

翌日、多岐にメールで言われていた通り降矢はミニうさるぅたを大学へ持ってきた。 片づけられた実験テーブルで数日振りに再会した兄弟。 多岐と降矢が見守る中、ふわふわもこもこなねむとるぅたはぴたりとくっつき合い、そのまま寝てしまった。 「やべぇな、写メ撮りてぇとか、生まれて初めて思ったわ」 「ちょっと退いてもらえます、多岐さん、そこにいると写って邪魔なので」 くぅくぅ眠り合う兄弟にデレデレな二人は仕事もそっちのけ、他のスタッフがドアをノックする度に空箱の蓋をかぶせて彼らを隠し、その日は何とも上の空な一日となった。 「せっかくだから、ねむ君もウチに連れて帰って、今日はるぅたと一緒にさせてあげましょうか」 降矢の提案に多岐は一瞬眉根を寄せかけたものの、たかが一日、そう自分に言い聞かせて「そうだな、任せる」と了承した。 降矢はまだ寝ている二匹をゆっくり丁寧に両手に拾い上げた。 すると、目を覚ました、ねむ。 「あ」 「危ねぇ……っ」 黒目がちなおめめがぱっちり開いたかと思えば、降矢の手の上からぴょんっと飛び降り、実験テーブルから然程離れていなかったというのに焦った多岐は慌てて着地点に両手を差し出した。 爪先まで整ったしなやかな両手から脱し、骨張った大きな両手に受け止められた、ねむ。 そのまま丸くなる。 目を閉じて安心しきった様に多岐はつい笑った。 「じゃあ俺が弟も連れて帰るか」 続いて目が覚めたるぅたは慌てて兄の後を追おうとしたが。 優しい仕草ながらも降矢の両手の間に閉じ込められて「きーーっ」と鳴いた。 「また次の機会にしましょうか、俺に慣れてないみたいだから、ねむ君」 「あ……うん、そうだな」 きーーきーー鳴くるぅたをしっかり両手に閉じ込め、にっこり笑った部下に多岐はちょっとヒいてしまう。 その手の上で弟の嘆きも余所にまた眠りにつこうとしているマイペースねむ、なのだった。

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