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いらっしゃいませ平凡くん-2

木曜日。三神さんに会えない日。 しかも急などしゃ降りの雨、傘なし。 バスを降りたおれはとりあえずコンビニに避難、ビニ傘を買おうか、走って帰るか、もうちょっと小降りになるのを待つか……。 「由井君?」 振り返れば濡れた前髪越しに三神さん。 ギャルソン風じゃない、シンプルな私服の、三神さん。 「その恰好、初めて見た」 「えっ?」 「制服。いつも私服だったから」 喫茶店に行くとき、制服だと浮くと思っていつも着替えていた。 「雨ひどいね」 「あっうん」 「もしかして傘ないの?」 「あ……うん」 「家、近いんだよね。送ろうか?」 「えっ」 パンとおにぎりを手にしていた三神さんは「車じゃないけど」と笑ってレジへ。 買い物を済ませた三神さんの元へ走り寄れば「ビニ傘だけど」とまた笑って、コンビニを出て、傘立てにきちんと畳んで置いていた傘を開いた。 夕方の雨の中を三神さんと並んで歩く。 片方の肩は傘からはみ出して濡れて、片方の肩は三神さんにくっついてる。 「最近、こういう雨多いね、いきなり降ってくる」 どうしよう。 返事ができない。 三神さんの顔、見れない。 だって今すごくまっかになってる、おれ。 「どっち?」 「あっ、こ、こっち」 「俺のアパートもこっち」 「えっ……そうなんだ」 「結構、近いのかもね」 ここどこだっけ? 何度も、ずっと、通ってきた道なのに。 知らない道みたい……。 「こっち?」 「あっ、うん、こっち」 「そう。俺のウチはあっち」 二つに分かれた道で立ち止まった三神さん。 「あっち行ってみる?」 スクバの取っ手をぎゅーーーっとしていたおれは何度も瞬きした。 うるさい雨音の中、三神さんの柔らかな声がふわりと落ちてくる。 「ウチ、遊びにくる?」 三神さんのおうちは新しそうな二階建てアパートの角部屋だった。 ロフトがあって、全体的にすっきり片付いていて、清潔感があって。 「はい」 三神さんはまずタオルをくれた。 お花みたいな香りがする、ふわふわしたタオルで、おれが自分で濡れた頭をぽんぽんしていたら、三神さんがぽんぽんしてくれて。 おれの頭をタオルでふわっと包み込んで、そのまま、キスを。 三神さんにキスされた。 唇をあっためるみたいに、ゆっくり触れてきた、三神さんの唇。 おうち訪問で心臓がバクバクしていたおれは世界が止まったみたいに一時停止。 でも世界は止まらない。 三神さんは動く。 タオル越しにおれの顔に両手を当ててキスを続ける。 「由井君」 「……はい」 「口開けるの、嫌?」 かろうじて返事をしたおれは、もう返事ができずに、ピシッと固まった。 だけど。 まるで三神さんの言葉に操られるみたいに、勝手に、震えながら、開いていく唇。 そしたら。 ぬるっと、なにかが、ううん、舌が、はいってきて。 唇の内側をゆっくり、ゆっくり、なぞられて。 頭の奥が引き攣るカンジ。 ぬる、ぬる、優しくなぞられる度に、バク、バク、鼓動が限界近くまで大きくなる。 どうしよう、どうしよう。 三神さん助けて。 「……由井君」 「ぷはっ……ぁ……はぁっ」 「息、止めてたの?」 あ。 おれ、いつの間にか三神さんのシャツ、ぎゅぅぅぅってしてた。 「ご、ごめんなさい」 「ううん? いいよ?」 「……ごめんなさい」 まだすぐそこにある三神さんの顔を見れなくて視線をいっしょうけんめいずらしていたら。 「もう少しキスしていい?」 おれ死んじゃうかもしれない。

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