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いらっしゃいませ平凡くん-6

「ん……」 時々、聞こえてくる、声。 「はぁ……」 掠れた吐息。 瞼の裏の薄闇に重たげに沈んでいく。 三神さんとセックスするとき、ほとんど、おれは目を瞑ってる。 だって絶対むり。 前は、ひどい顔してるだろうからって、三神さんに見られるのが嫌だった。 でも今は。 「っ……由井君……」 ぞく、ぞく、ぞく、ぞく。 そんな声で呼ばれたら鼓膜が火傷しそうになる。 規則的に体の奥を突かれるだけでもいっぱいいっぱいなのに、急いた息遣い、聞き慣れない上擦った声が……おれを惑わせる。 ギシギシと軋んでいたベッドが不意に静かになった。 「……いつも閉じてるね、目」 「っ……知らない」 「そんなに俺のこと見たくない?」 「ッ」 「俺のこと嫌いなの……?」 そっぽを向いて片腕で顔を覆って完全防備に徹底していたはずのおれは、三神さんの攻撃に、一瞬で丸腰になってしまう。 恐る恐る、ぎこちなく、瞼を開けば。 すぐ真上に迫る三神さんがおれのことを覗き込んでいた。 「……三神さん……」 綺麗で、綺麗で、綺麗で。 あんまりにも尊くて涙までぼろぼろ出てきた。 「由井君」 「ちがっ……違うんです、だって三神さん……綺麗で、見てたら、おれ……しんじゃう……」 おれがそう言ったら、三神さん、笑った。 「俺は由井君のこと見ていたいよ」 どうしてこの人と一緒にいられてるんだろ、おれ、変なの。 「あっっっ」 もっともっと、一番奥まで、三神さんが潜り込んできた。 かけがえのない熱で押し開かれた辺りがぐずぐずに溶けていきそうな。 どくん、どくん、おれの奥底で息をしているのを痛感して無性に切なくなる。 「俺のこと、ほしい……?」 グリ、グリ、された。 勝手に跳ねる体。 三神さんに貪欲に噛みついてしまって、どうしよう、がっついてるなんて思われたら、そんなつもりじゃ……。 今、三神さんを独り占めしてる。 誰よりも近いところにいる。 ひとつになってる……。 「っ……ほしい、です……」 自分から抱きつくのはまだ難しくて、両腕をぎゅっと掴んで、おれは精一杯三神さんを見つめた。 「三神さん……おれ、ほしい……三神さんのこと、いっぱいほしい……すごい、好き……大好き……」 「いいよ。あげる」 俺でおなかいっぱいにしてあげる、由井君。 「っっっ……あっあっあっあっ……ん……っ……!!」 ギシギシギシギシ、激しくなったベッドの軋み。 一番奥をしっかり暴いては知り尽くそうとするみたいに動く三神さんの。 おれは自然と三神さんに抱きつくことができた。 そうでもしなきゃ……全身バラバラになりそうで、魂がどこか遠くに飛んで行ってしまいそうだった。 「みかみっ、さっ……」 ほんと信じられない。 この人のものになってるなんて。 こんな幸せ、生まれてから死ぬまで、きっとない……。 カランコロン。 「いらっしゃいませ」 ホットココアをちびちび飲みながら喫茶店でバイト中の三神さんを観賞。 なんて有意義な冬休みだろう。 「にゃー」 あ、うるしが来た、よしよし、しとこ、他のお客さんやマスターにうるし目的で通ってるってアピールしとかないと。 「はい、どうぞ」 三神さんがオマケでチョコチップクッキーをくれた。 ギャルソン風の制服がよく似合っていて、ふんわり優しい香り、おれの大好きな人。 「特別なお客様にだけ、だから」 不意に上体を屈めたかと思えば耳元でそう囁いて三神さんは店の奥に戻って行った。 「にゃー」 あ、まだいた、うるし。 うるしにだけは教えてもいいかな。 おれと三神さん、恋人同士なんだ。 そうだ、うるしがいなかったら、三神さんがうるしを抱っこして散歩させていなかったら、おれと三神さん、出会ってなかったかもしれない。 「ありがと、うるし」 「にゃー?」 キョトンな黒猫うるしの頭を撫でて、カランコロン、おれは喫茶店のベルが心地よく鳴るのを定位置の席で今日も聞き届ける。 end

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