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こっち向いてカシャッ/人見知り写真部×おおらか水泳部

水飛沫が舞い上がる。 各校の生徒による応援が会場を埋め尽くす中、舞台である競泳プールで努力と練習を積み重ねた末に得た技術を競い合う十代の選手達。 「逢坂っ、弘瀬君すごいね!」 観客席の最前列、高校一年生の逢坂(おうさか)は一眼レフを構えたまま「弘瀬?」と隣に立つクラスメートで同じ写真部でもある羽海野(うみの)に聞き返した。 「同じクラスだよっ? 水泳部のキラキラ系イケメン一年エース! がんばれっ弘瀬くーんっ!! ほら、ぶっちぎり一位! すごい!」 やたらはしゃいでいる羽海野に眼鏡をかけた逢坂は首を傾げる。 クラスメートが一位になったのだ、羽海野の反応は至極まともだろう。 クラスメートにあまり興味がない逢坂は写真部活動の一環としてシャッターを切る。 イケメンエースの出番が終了すると「はー撮れた撮れた!」とベンチに座った羽海野を余所に逢坂は重たいカメラを構え続ける。 まだ決定的な瞬間を収めきれていない気がする。 物足りなさを感じる。 次に行われる100m自由形種目の選手がスタート地点に並んだ。 短い電子音と共にほぼ同じタイミングで静寂だった水面に皆がしなやかに飛び込む。 逢坂は改めてカメラを構えた……。 「弘瀬、一位おめでとー!」 高総体明け、朝の教室で同級生に囲まれたキラキラ系イケメンの弘瀬(ひろせ)は満更でもなさそうにキラキラ笑顔を浮かべた。 「環も、三位、おめでと」 弘瀬の隣にいた(たまき)は大人びた笑みで浅く頷いた。 眉もきちんとお手入れ済みで染めた茶髪を毎朝セットしてくる弘瀬と違い、天然茶色の手つかず短髪で、大声・大笑いを滅多に発さない、誰に対しても親切でおおらかな性格の持ち主。 同じ小学校・中学で付き合いの長い弘瀬が教室に入るなり皆に囲まれて持て囃される中、その輪からすっと抜け、自分の席に着く。 朝食はとってきたが小腹が空くので毎朝コンビニで買うおにぎりの包装を破っていたら。 机の上にすっと置かれた印画紙。 モノクロの写真。 水を切り裂くようにして前進に挑む瞬間の自分が写し出されていた。 「逢坂」 クラスメートと視線を合わせないことで有名なあの逢坂が俺のこと見てる。 いつも俯きがちだから知らなかった。 逢坂ってこんな顔してるのか。 なんで俺の写真なんか、ああ、そっか、確か写真部だったっけ。 一瞬、部活関係なしに撮られたのかと思った……それはナイよな。 「これ、もらっていいの?」 逢坂は首を左右に振った。 環が手にしていた写真を奪い取って自席にすたすた戻って行く。 環は思わずポカンとした。 「弘瀬、よくやったな」 担任がやってきてホームルームが始まり、おにぎりを食べそびれた環なのだった。

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