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こっち向いてカシャッ-4
次のネガをセットして露光した印画紙を再び現像液へ投入し、逢坂は、やはりすらすら言葉を続けた。
「環の泳ぎは魅了されるくらい光って見えた」
あまりにもストレートな表現。
めったなことでは動じない環の心を波打たせるくらいの直球だった。
「あ……ありがと」
「? 褒めたわけじゃない」
あれ?
逢坂、猫背じゃない?
暗室だとよく喋って、猫背も矯正されるんだ?
淡々と作業を進める逢坂の横顔をちらりと眺め、環は、自分にとって非日常なこの空間に何だかモヤモヤしてきた。
昼なのに暗くて、じっとりしていて、静かで。
学校なのに学校じゃないような。
逢坂自身もいつもの逢坂じゃなくて。
「してみるか?」
逢坂に竹ピンセットを差し出されて環は反射的に受け取ろうとした。
指と指が触れる。
あ。
逢坂の手って俺よりでかいーーー
ばんっっっ!
「羽海野……っごめん、俺もうガマンできないっっ」
「待っ……弘瀬君、お、俺……ッ」
がたがたがたがたっ!
「ま、待って、や、優しくして……っ? 乱暴なの怖いよ……っ」
「……羽海野ッ……なんでそんなかわいーの?」
「んっっ!」
壁で隔てられたもう一つのスペースに誰かが……いや、羽海野と弘瀬が突進するように雪崩れ込んできたかと思えば、何やらいかがわしい逢瀬が開始されて。
凍りついた環。
薄闇の中でどうしていいかわからずに混沌とした非日常で立ち竦んでいたら。
「ごほん!!!!」
がたごと騒がしかった向こうのスペースが唐突に静まり返った。
咳払いをした張本人の逢坂は……平然と作業を続けていた。
「先輩ので慣れてる」
ちょっと待ってよ、逢坂。
先輩で慣れてるって……でもさすがに男同士じゃなかったろ?
よく知ってる友達同士とかじゃ……なかっただろ?
逢坂って、ちょっと、変わってる。
自分の存在に気づいていないようだったから暗室にいたことを弘瀬には黙っておくことにした。
いつか弘瀬が打ち明けてくれたら、実は……なんて教えてあげればいいと、環はそう決めた。
「おーさか、ほんとごめん!」
月曜日、登校した環は自分より先に教室に来ていた弘瀬が耳まで真っ赤にしている羽海野を隣にして逢坂に謝っている場面を見つけた。
キラキラ系イケメンに少し免疫がついたのか。
「……次からは人の有無を確認するように」
逢坂はちゃんと弘瀬本人に話しかけていた。
そんな姿に環は胸の辺りがジリジリ、梅雨の最中の気紛れな日差しに炙られているような心地になった……。
「環」
教室でふと呼びかけられて顔を向ければ、カシャッ。
びっくりした環の視線の先には一眼レフを構えた逢坂がいた。
「教室風景の撮影が課題に出た」
二枚目をとろうとしている逢坂に環は片手を顔の前に翳して、無言の拒否。
今、撮られたら、俺、どんな顔してるか。
カシャッ
あ。逢坂のバカ。
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