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神父様に捧げるセレナーデ/俺様最強旅人×健気美人神父

とある辺境の村に魔物が現れた。 魔物は村で最も美しい娘に目をつけた。 娘を差し出せば誰も傷つけずに遠くへ去ることを村治めの者達に約束した。 差し出さなければ世にも残酷な悪夢を見せてやろう。 七つの目と鋭い(くちばし)を持つ魔物はそんな約束まで押しつけていった……。 「異形の花嫁になんかなりたくないわ!」 村人達の大半が娘を生贄として捧げる意見に傾く中、娘と幼い頃からの仲である神父の眞弓(まゆみ)だけは断固として反対した。 「皆さん、別の道があるはずです、誰一人として犠牲にならずに魔物を退ける方法を考えましょう」 しかし魔物から期限として定められた月齢十五の夜は刻一刻と迫っていた。 自分自身が、家族の誰かが命を落とすかもしれない、そんな恐怖心に冷静な判断力は見事に欠け落ちて村全体が集団ヒステリーに蝕まれていく一方だった。 「眞弓、私……村のためじゃなく、貴方のためなら異形に嫁いでも……構わないかもしれない」 自ら生贄として魔物の元へ向かおうとした娘を眞弓だけは引き留め続けた。 「諦めないで。考えましょう」 「眞弓……だけど、もう……」 明日の夜には満ちる月、約束の夜、しかし眞弓は決して膝を折ることなく幼馴染みの彼女に微笑んでみせるのだ。 「友達の君を魔物に渡したりなんかしません」 村外れに建つ古びた木造の教会に彼女を残して眞弓は一人夜空を見上げた。 森から吹く風に靡く漆黒の神父服。 胸元のロザリオが月明かりを反射して淡く煌めく。 「いざとなったら私が魔物を……」 しかし余りにも辺鄙な土地で争い事には無縁、平和だったこの小さな村に魔物を討つことができる強力な武器などない。 農作業に日々励んで慎ましく穏やかに生きてきた村人にそのような力もない。 眞弓自身だってそうだ。 自分の命と引き換えにしてでも、そんな勇敢な決意は秘めているものの七つ目の魔物に接近することだって難しい。 眞弓は悪戯な夜風に成されるがまま絹糸の如き髪を乱して佇んでいた。 そこへ。 一人の旅人が。 深い闇をものともせず、微塵の迷いも感じられない足取りで森を突き進んできた男。 ロングジャケットの裾が緩やかにたなびいている。 背中には立派なロングソード、腰にはダガー。 履き慣らしたブーツには小型ナイフを忍ばせて。 フードを目深にかぶった長身の旅人は教会の微かな明かりを遠目に見つけてやってきたのだ。 「一晩、寝床を提供してくれないか、神父」 フード下に覗いた不遜なるアイスブルーの双眸。 片頬には何らかの爪に刻まれたかと思しき三筋の傷跡。 まるで運命づけられていたかのように十五夜の前夜に教会を訪れた、どこからどう見ても手練れ然とした旅人。 眞弓は心の底から震え上がった。 「私は貴方を待っていました」 ドラマチックな台詞じみた言葉がついて出た眞弓を不審がるでもなく、旅人は、涼やかな目許をした神父を面白そうに見つめ返した……。 そして次の夜。 約束の満月の日。 旅人は魔物をあっけらかんと討ち倒した。

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