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raspberryな恋人-3

酔っ払いの智弘が夜の通りを危なっかしげに進む。 彼の上着やら鞄やら持っていた藤耶は、さて、どうしたものかと思案する。 「升野さん、家は?」 「家~? いいね~あっくんちで二次会~」 「あの」 「あっくんち行くの~じゃなきゃ、俺、帰らないっ」 聞き分けの悪い彼女のように藤耶の片腕にしがみついてくる。 昨日と同様、ラズベリー色に染まった目元で藤耶を見上げ、猫みたいにごろごろとじゃれついてくる。 仕方ないと、藤耶は肩を竦めた。 七階建てアパートのこざっぱりとしたワンルームが藤耶の現住まいだ。 渋々お招きすると、とりあえず座椅子に智弘を座らせてグラスに水を汲んだ。 「升野さん」 それはちょっとした智弘の粗相。 手渡されたグラスから水を飲もうとして、ふやけた思考回路が指先の神経まで覚束なくなせ、彼は口元を濡らしてしまった。 そばにいた藤耶はすぐさまティッシュで拭き取ろうとした。 艶めく唇、下あごへと落ちた水の滴り。 頼りなさそうに浮つく双眸。 ティッシュボックスへ伸ばしかけた手が、熱い頬に、触れる。 濡れた唇に吸い寄せられるように。 藤耶は智弘にキスした。 「ん……ふ……」 ただ重ねていただけの唇はいつの間にか開閉を緩々と繰り返すようになった。 相手の感触を確かめるように、微かな熱を共有するように。 それでは物足りなくなって、潜めていた舌を、突き出す。 上唇を舐め上げてみれば、藤耶の舌先を追うように、智弘の舌先も続いた。 クチュ、と互いの舌尖が繋がる。 繋がってしまえば、加速がついて、絡ませて、縺れるように戯れて。 湧いてくる唾液を互いの唇に塗りたくって。 何度も角度を変えてはざらついた舌の上で吐息も交わらせた。 「んぅ……」 少し苦しげな智弘の声。 藤耶は顔を離そうとした。 伸びてきた彼の腕が、それを拒んだ。 座椅子の上で上体を捻った智弘が中腰でいた藤耶に抱き着いてくる。 立つでもなく、座るでもない、中途半端な姿勢でいた藤耶は男の体を支えきれず、ラグに手を突いた。 背もたれに背中を預けた智弘に促されるままキスを続ける。 「ふ……っ……」 どうしてだろう。 何で俺はこの人とキスしてるんだ? 水を飲ませようと思っただけなのに。 この人、男なのに。 「ふぁ……ぅ……っ」 藤耶の頭の中で浮かんだ疑問はシャボン玉のように弾けて消えていった。 智弘が喉奥で呼吸を詰まらせる度に、衝動は勢いづき、唇を支配する。 濃密に重ねた舌を小刻みに動かして生じる摩擦に、理性が、溶けていく。 そうして今度は智弘の方が離れる素振りを見せた。 つい、無意識に、藤耶は離れ行く微熱を追いかけて歯を立てた。 半開きの目と目が合う。 智弘の酔いに浸された双眸がやたら悩ましげに見えて、藤耶は、食い込ませた歯列にちょっと力を込めた。 かりっ 「んっ」 下唇に浅く沈んだ藤耶の歯列に智弘は喉奥で声を上げる。 背もたれを伝ってずるずると滑り落ちていく。 藤耶もまた智弘を追って、頭を低くしていく。 どうしよう、止められない……。 最終的にラグの上で智弘に覆い被さる格好にまでなった。 「……キス、上手だねぇ」 そんなこと、初めて言われた藤耶は、首を左右に振る。 「……謙遜しちゃって」 智弘はくすくす笑い、どうしていいかわからずに、自分に覆い被さったまま停止している藤耶に言った。 「しちゃう?」 「え?」 「もっとエロいこと、俺とする?」 はだけた襟元から覗く上気した首筋。 二人分の唾液で潤う唇。 熱で緩んだ半開きの双眸。 「あっくん、俺としたい?」 藤耶は正直に答えた。 「したいです」 その日から智弘は藤耶のアパートに入り浸るようになった。 藤耶が彼らを見かけたのはバイト先に向かっていたときだった。 車道を挟んだ反対側の歩道を歩いていて、我ながらよく気づいたものだと感心、いや、後悔した。 智弘には二人の連れがいた。 一人はふわふわしたハニーブラウンの髪を靡かせる小柄な女性。 もう一人は智弘の腕の中にいた。

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