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コマくんとアイちゃん/長身美形×チビ男前
「すみませーん」
「え?」
「時々、ココに立ってますよね?」
「うん。邪魔だった?」
「その制服、△△高ですよね、トモダチいます」
「ふーん」
「ワタシ一年なんですけど、三年生……ですよね?」
「ううん、二年」
アイの奴、また話しかけられてる。
どうすっかな、そばで待つのもアレだし、かと言って無言でスル―すんのもアレだよな。
「アイ」
「あ。コマくん」
「先行っとくな」
「俺も行く」
まだまだおしゃべりしたがっていた女子を「じゃあね」と一刀両断、校門前で十分程立ちっぱなしだった藍川 はやってきた狛野 に笑顔で駆け寄った。
物欲しげに藍川を眺めている知らない下級生女子に「ごめん」と狛野は侘び、彼女の存在をもうすっかり忘れて自分に寄り添う藍川といっしょに下校した。
まだ日の高い時間帯、電線に区切られた青い空、見慣れ過ぎた街並み。
「あそこで待ってるの、きつくない? そこのコンビニで待てば?」
ちっちゃい狛野。
学ランに襟シャツ、学生鞄を小脇に抱え、白スニーカー、クラスどころか学年において男女関係なく親しまれている生徒。
「平気」
長身の藍川。
ベストにネクタイ、スクバを肩に提げて長袖シャツを腕捲り、焦げ茶のローファー、先程のように見知らぬ女子から話しかけられちゃったりする美形くん。
その美形くん藍川がずっと手にしているソレに狛野は首を傾げた。
「それ、どーした? もらったのか?」
「ううん。花壇に咲いてて。綺麗だったから」
「引っこ抜いたのかよ?」
「うん」
藍川は可愛らしい一輪のちっちゃなお花を狛野の髪に挿し込んだ。
「かわいい、コマくん、似合う」
いや、似合わないし。
ほんと、変だよな、うん。
アイはどうしてこんななっちゃったんだろう。
小学生の頃、極度に女顔だった藍川は周囲のクラスメートからしょっちゅうからかわれていた。
『文化祭の劇、お姫様役やんなよ、アイちゃん』
『そーそーぴったし』
『……やだぁ……スカート履きたくないもん』
『履ーけ履ーけ履ーけ』
『……ぐすんっ』
そんなとき、いつも庇っていたのが狛野だった。
『じゃあおれがお姫様役やる、スカート履く』
『ぶはっ……かけっこ一番はやいコマくんが?』
『ちがうって、コマくんは王子様役だって』
『王子ださいもん。それならお姫様役のがいい』
『コマくんがお姫様やるならワタシ王子する!』
『サオリも王子様がいいっ』
場を盛り上げて切り替えて上手にさり気なく何度も藍川を守っていた。
『……ありがとぉ、コマくん……』
泣き笑いを浮かべて何度も礼を言ってきた藍川。
それが。
小学校高学年から高校にかけてぐんぐん背が伸びて、女顔はイイ感じに中性的美形属性の顔立ちへ成長を遂げて。
「あれ、どうして外すの?」
「恥ずかしいって」
「似合ってるのに」
同じバスに乗って同じ停留所で降りて、割と真新しい住宅地へいっしょに進む。
「なぁ、アイ」
「うん?」
「えっと……」
「ウチ来るよね?」
「……うん」
放課後、おうちにお招き、そんな普通のやり取りに何故か意味深な表情を浮かべた狛野。
気持ちのいい風にサラサラ髪を靡かせて始終笑顔の藍川、だったが。
「あれ?」
三階建て自宅の駐車場に停められた車が視界に入ると、何故か、しょ気た。
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