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いっちょん好かんと-5/all
一両編成の電車を下りれば真正面に海がバーーーンっっ広がる無人駅に出迎えられた。
「ほんとに来たん」
いや、他にもちゃんと出迎えてくれる者がいた。
十二月ラストの講義が終わるなり速やかに地元に帰省していた、しっかり重ね着した森山が潮風のびゅんびゅん吹き抜ける大変開放的なホームにポツンと突っ立っていた。
「森山くん」
ファストファッションではないハイブランド物の上質な黒チェスターコートに黒タートルネック、細身の黒ボトムス、ハイカットの黒ブーツを履いて、白レザーのトートバッグを肩に引っ掛けた身軽な瀬利。
古めかしい電車から悠然と降り立った、どこからどう見ても全角パーフェクトな美形っぷりを誇る瀬利に森山がついつい見惚れていたら。
「ぅぎゃっ」
抱きしめられて変な悲鳴が出た。
「会いたかった」
「なんねっ、大袈裟かっ、先週まで大学で一緒おったやろ!?」
「寒いよ森山くん」
「どう見ても瀬利くん薄着やもんっ!!」
瀬利が名残惜しそうに離れると森山は自分がぐるぐる巻いていた手編み風マフラーを彼の首にぐるぐる巻いた。
するとあら不思議、アウトレットモールでお買い得だったワゴンセールの売れ残り商品も瀬利が身につけると随分と見違えるではないか。
恐るべき美形パワーである。
「あったかい」
スベスベなお肌をほんのり上気させて微笑んだ瀬利に森山はぽーーーっとなる。
冬の瀬利くんの破壊力、半端ない。
冬って美形度が増す季節なのかな。
(※心の声は標準語な森山)
「あの」
森山ははっとした。
たった一泊にしては大層なキャリーケースを引き摺り、あわや乗り過ごすところだった珠那が走り去る電車をバックにして堂々と白けていた。
「えっ、瀬利くん、弟も連れてきたと?」
「珠那が来たいって言うから」
「ッ……別に来たかったわけじゃ、宿題も終わったし、ヒマだったから」
冬休みを利用して地元に遊びにきたいと言い出した瀬利、なかなかワガママな彼のおねだりを渋々承知していた森山は、予定になかった弟・珠那の同行には嫌な顔一つせずに。
「珠那くん来たって知ったらヒロちゃん喜ぶよ!」
兄の恋人に笑いかけられて、その言葉に、美形兄とよく似た見目麗しい高校二年生の珠那は冬でも瑞々しく潤う唇をキュッと結んだ。
「……別に。この辺コンビニありますか、あったかいもの買いたくて」
「コンビニはこっから車で十五分、ちょっと遠かとよ」
「……ちょっと、どころじゃ、ない」
「ウチまでは歩いて十五分やけん、あ、自販機ならあるけん、おしるこ売っとるけん」
「……おしるこ」
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