116 / 596

いっちょん好かんと-6

かくして、珠那が歩きながらちびちび飲んでいた熱々おしるこがなくなる頃、三人は森山宅に到着した。 「……急に一人増えて、家族の人、困りませんか」 何ら気にするでもない兄に変わって心配する弟に森山は首を左右に振った。 「よかと。お刺身とか天ぷらとかお寿司とか、こげん用意して、絶対食べ切らん、余るやろうもんって思っとったし」 正直、半分くらい聞き取ることができなかった珠那は一先ず頷いておくことにした。 『おいのこと……好きになって、珠那クン』 浩哉クン、久し振りに会う。 兄さんにも、誰にも、君とのこと話してない。 どうしよう、どきどきする。 ほんとに喜んでくれる? ウザがられたりしない……? 「ただいまー!」 チャイムも鳴らさず、てっきりロックされていると思ったドアをガチャリと開いた森山にびっくりした珠那、瀬利は相変わらず特に気にするでもなく恋人にぴったり寄り添っている。 どたどたどたどた!! うそ、どうしよう、もう来るの、まだ心の準備が……。 「おかえり兄ちゃん!!」 またしても珠那は驚いた。 以前に会ったときよりもどえらく縮んだ森山の弟・浩哉に呆気にとられ……。 「ただいまソウちゃん!」 「……ソウちゃん?」 「おいの弟。末っ子の颯之輔」 初対面であるハニーな髪色をした美形兄弟を森山家の末っ子・颯之輔(そうのすけ)はまじまじと見上げていた、かと思えば。 「かわいかっっ」 玄関床に裸足で降り立つや否や突っ立ったままでいた珠那に抱きついた。 「えっ」 「兄ちゃんのカノジョなん?」 「ち、ちが」 「おぃの兄ちゃん、おっちょこちょいやけど、やさしかけん、ポイせんでね?」 「ソウくん、違うよ、君のお兄さんとお付き合いしているのは俺、」 「一番目に訂正するのソコじゃなかっ、てか言わんでよかっ、ソウちゃん、珠那くんは男やけんね?」 「えーーうそだーー」 小学校低学年のちっちゃな颯之輔にぎゅーーっされて、どうしようと困る珠那、余計なことを話そうとする瀬利の口を必死になって塞ぐ森山、玄関先でわちゃわちゃしていると。 「寒かやろーけん、早く上がってもらわんね、兄ちゃん」 珠那は……目を見張らせた。 縮んでいない、むしろ少し身長が伸びた浩哉がリビングから顔を覗かせて息を呑んだ。 「珠那クンやん」 浩哉クンだ。 どうしよう。 やっぱり君って……ただただかっこいい。 「ビックリした」 「……急に来たから」 「よか。ごはんいっぱいあるけん」 「それ、君のお兄さんにも言われた」 「この荷物なんなん」 「じ、自分で持つから」 「お客さんやし。おいが持つ。どうぞ」 「……お邪魔します」 「おじゃましまーーすっっ」 「颯之輔は言わんでよか」 また身長が伸びている次男にヤキモキしつつも、森山は、珠那への構いっぷりに首を傾げた。 「前にちょっと会っただけで、ヒロちゃん、えらく珠那クンに懐いとるとよ」 「金魚、かわいいね、そこの海で釣ったの?」 玄関先に置かれた水槽を覗き込んでいる瀬利に苦笑した森山、弟達への「?」は自然と意識外へ追いやられていくのだった。 母親が随分と張り切った手料理、近所の仕出し屋から頼んだ出前のほとんどは森山三兄弟によって片づけられた。 「森山くん、あんまり変わってない」 遅めの昼食後、長男の部屋に集まって卒業アルバムを観賞。 「この頃、彼女は?」 「知っとるくせ、前に言ったやろ、一人もおらんっ」 「兄ちゃん、同じクラスのコに告ってフラれたけんね」 「同じクラスのコに告白? その話は聞いたことないよ、森山くん?」 「余計なコト言わんでよか、ヒロちゃん」 ハロゲンストーブを点けて暖かくした部屋、座椅子に座り、ラグの上で足を伸ばして興味深そうに卒業アルバムを見つめていた瀬利だったが。 「足ん長かー」 末っ子、颯之輔がじゃれついてきた。 「おにーちゃん、かっこよか」 「うん。よく言われる」 「みんなにいっぱい好かれとっと?」 颯之輔くん、ヒロくんより森山くんに似てる。 森山くんの小さい頃もこんな感じだったのかな。 人懐っこくて、よく動き回って、小動物みたい。 「よしよし」 瀬利に頭を撫でられた颯之輔はくすぐったそうにきゃっきゃ笑った。 「おねーちゃんもみんなに好かれとっと?」 未だ女子扱いされて返事に迷っている珠那のお膝にぴょんっと飛びつく。 「おててもきれかー」 『男なのに。キレイかけん』 浩哉クンと同じこと言われた。 二人、よく似てる、大きくなったら浩哉クンみたいになるのかな。 「……颯之輔クンも野球するのかな」 初めて珠那に名前を呼ばれて颯之輔は嬉しそうにうんうん頷いた。 「まだベンチやけど、いつかね、試合出てホームランうつと!!」 キラキラした目で力いっぱいそう言われて、珠那も、自然と笑みを浮かべた。 元気いっぱいな颯之輔の相手をしていたらあっという間に時間が過ぎた。 「せっかくだし」 夕方、民宿の予約はちゃんと二名に変更していた瀬利は提案した。 「珠那はココに泊まって、森山くん、俺と民宿に来たら」 「ちょ、待って、何でそうなると」 「それがよか、そうしよ、兄ちゃん」 「……俺、こっちに泊まっていいの」 「おねーちゃん泊まって!ゲームしよ!」 かくして昼より豪華になった早めの晩ごはんを済ませると、森山は、特に新鮮味もない近場の民宿へわざわざ出向く羽目になった……。

ともだちにシェアしよう!