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女体化した幼馴染みがすぐ元に戻ったけど意外と平気だった。-10

『幼馴染みがまた女体化した』 その日、甲原和希は幼馴染みの皆本瞬の二度目なる異変に目敏く気がついた。 「お……おはよ、和希」 制服にジャージの上だけ着込んだ瞬はマスク越しにもごもご。 和希はダサ眼鏡越しに上から下までゆっくり見回して、最後、胸元をじっと凝視した。 「お前、また女体化したのか、瞬」 それからの和希の過保護ぶりは凄まじかった。 電車内では女顔+美尻のせいで普段から痴漢にしばしば遭遇する瞬の背後にはりついて周囲を牽制し、学校に着けば瞬の隣席のクラスメートに無理を言って席を変わってもらい、授業中は教師に対しても警戒を怠らなかった。 「じゃあ、この章は皆本に、」 「本日は折悪しくも喉の調子が悪い皆本瞬に代わって私、甲原が読みたいと思います」 なーんていうガードぶりだった。 昼休みは購買で弁当を買うと誰もいない教室でこっそり食べた。 「……別に食堂でもよかったんじゃね?」 「瞬、女体化をなめるな、最高レベルで警戒するに越したことはない」 そっち方面のアダルト知識が無駄にあるだけに和希は徹底しているようだ。 顎の下にマスクを追いやって、いつにもまして女顔……というか女の顔を曝した瞬は、オムライス弁当をもぐもぐ頬張りながらも、向かい側でカツサンドを食べる和希をちらりと意味深に見つめるのだった。 さて放課後になった。 「あの、皆本、ちょっといい?」 そいつは男子女子教師誰もが認める爽やかイケメン同級生の五月原(ごがつばら)だった。 放課後、和希と瞬が真っ先に帰ろうとしているところへ背後から声をかけてきたのだ。 クラスが一緒になったこともなく、あまり面識のなかった五月原に呼び止められて瞬はきょとんとしている。 短髪小顔で身長は高い方の五月原、何故か頬を赤くして頷くと。 「ちょっと、あっちでいい?」 なんだ、この展開は。 さてはこいつ瞬の女体化に気づいて俺の瞬に悪戯する気だな? 「断る、こいつは俺と今から帰宅するんだ」 「……あ、ごめん」 和希がびしっと告げると五月原はしょんぼりした。 何も言い返さない、申し訳なさそうに笑う様がまた爽やか好印象に拍車をかけ、周囲にいた女子は同情を寄せ、和希にはバッシングを浴びせた。 「サイテーキモヲタ甲原」 「ばーか」 当の和希は表情をびくともさせず、代わりに怒ったのは瞬で。 「んだよ! そりゃサイテーかもしんねぇしヲタだけど和希はバカじゃねぇぞ!!」 「瞬、あまり声を出すな」 「あ、そうだった、てか、俺とりあえず五月原の話聞いてくるよ」 「……お前、やめておけ、だから女体化をなめるなと、」 「大丈夫だって、すぐ戻ってくっからさ」 『皆本、お前……実は女なんだろ?』 『えっ?』 『だって、ほら……これ』 『ちょ、やめろよ、五月原!?』 『……やっぱり女子の胸だ』 びっくりしている瞬をぎゅっと抱きしめる五月原。 爽やか五月原から発せられる正に五月じみた薫風フェロモンに瞬はその腕の中で思わず溺れて……。 律儀に待っていられたのもほんの僅かな時間だけ。 不吉な妄想が脳裏に生まれた瞬間、和希は二人が消えていった廊下の奥へ足早に向かった。 皆が認める爽やかイケメンだろうと身長+エロテクニックが勝っているのは明らかに俺、そして美尻女顔のかわいい瞬を抱きしめていいのも、そう、俺だけ(女体化も然り)。 瞬に少しでも触れたら、胸でも揉もうものなら、その時は覚悟しておけよ、爽やかイケメン殿? 帰宅する生徒の流れが落ち着いて静けさに包まれた廊下を突っ切って和希は奥の階段へ。 上か下、どちらに進もうか決めかねていたら、話し声が聞こえてきた。 「……俺には……」 「ごめん……頼むよ……」 手摺り越しに見下ろしてみれば踊り場に立って小声で会話する瞬と五月原が。 爽やかイケメン殿、さっきよりも顔が赤いじゃないか。 瞬はどうだ……ああ、無事そうだな、女ともばれていないようだが……。 そのときだった。 和希の視線の先で五月原がいきなり瞬のか細い肩をがしっと掴んだ。 瞬が俺以外の人間にキスされる―― 「おい」 瞬と五月原はぎょっとして頭上を仰ぎ見た。 ダサ眼鏡を外した和希が速くもなく遅くもない足取りで階段を下りてくる……。 和希がまずしたことは、五月原から自分の元へ瞬を取り戻す、だった。 次に、五月原を、牽制した。 一重の切れ長な双眸で真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ、見据える。 睨まれるよりも凄味があって五月原はたじろいだ。 「行くぞ、瞬」 「あ、和希……」 「あ、ごめん、ちょ、待って……!」 五月原の悲痛な呼びかけが階段に木霊した。 立ち止まった和希は瞬の肩に腕を回したまま億劫そうに振り返る。 「す……好きになっちゃって……」 爽やかイケメン殿、女体化に気づいたとかじゃなく、ただ瞬に恋心を…………。 「俺……だめかな、無理かな?」 甲原君のこと好きなんだけど。 「終業式のストリップでずっきゅんきたんだと」 誰もいない自動販売機コーナーに設置されたベンチに並んで座った和希と瞬。 幼馴染みは今回「ぼふんっ☆」という効果音もなしにいつの間にか元に戻っていた。 「あんな爽やかイケメンに好かれちゃうなんてな」 「爽やかイケメン殿の五月原に興味などない」 和希はそっくりそのままの言葉を五月原にも告げていた。 しょんぼりした柴犬みたいな五月原であったが「じゃあ……トモダチで」と、握手を求め、和希が応じてやると、ぽっと頬を赤く染めていた。 ちゃんと諦めがついたのか怪しいもんである。 女体化が解けたというのに瞬の顔色は優れない。 和希は揶揄するつもりで隣に座る彼に言う。 「なんだ、妬いているのか、瞬?」 きっと顔を真っ赤にしてぶんぶん首を左右に振りながら慌てて答えるだろう。 「うん、妬いてるかも」 …………ん? 瞬は頑なに俯いていた。 予想裏切る反応に無言でいる和希の隣で、今日一日感じたことを、ぽつりぽつりと語り出した。 「和希さ、前回はエロ目的で纏わりついて散々悪戯してきただろ。だけど今回は……一日ずっと……俺のこと守ってくれた」 言われてみればその通りだ。 悪戯する余裕もなく、誰にも触れられないよう、瞬を守ることだけを考えていた。 「……なんか……嬉しかったかも」 不慣れな発言に瞬は真っ赤になっていた。 パックジュースを握り締める余り、ストロー先から中身のバナナミルクが後少しで飛び出しそうになっている。 なんともいじらしい幼馴染みの様に和希は。 制御不能な性なる欲望に身も心も一発で撃ち抜かれた。

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