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痴ヒーロー悪戯伝-10

ゾンビに侵入されてパニックに陥ったアジト内を俺は突き進んでいた。 零を探して。 いつ死ぬかもわからないこの世界、もう迷いはない、悔いは残さない、自分に嘘はつかない。 これからは零と共に生きる。 零無しじゃあ、俺は、ゾンビ以下の亡者と成り果てる……。 「何やってるの、七狗!」 幸運にも零の声が、走って向かった先にはラボらしき施設が、立て続けに聞こえてきた銃声、事は一刻を争うようだ。 「零、いるのか……!?」 ラボには複数のゾンビが転がっていた、二度の死を味わったとは不運な奴等だ。 「赤紫……か?」 ショットガンを手にした仲間の赤紫の姿に俺は驚いた。 次に身動き一つしない赤紫に首を傾げ、奴が見ている先に視線を向け……さらに驚愕した。 零がいた。 白衣を着た配下が精一杯背伸びをして、零にしがみついて、零に……キスをしていた。 *** 「七狗、貴方まさか……惚れ薬かぶっちゃったの?」 「零様~好き~零様好き~っ」 「今すぐ七狗から離れろオネエ!!」 「うるさいわね、解毒剤どこにあるのよ、こんなときにこのコったら」 「離れろオネエ!!」 「うるさいって言ってんでしょ!!」 「……零……」 まさか。 まだ抗体の副作用で視覚がシャットダウンされることもあるから、今となってはどこよりも安全な地下牢で休ませていたはずなのに。 「群青、貴方、どうやって外へ」 「伍魅が出してくれた」 『青様、お別れなのでェす、ここはもう駄目でェす、今すぐ逃げて?』 『お前はどうする、伍魅……』 『きゃふっ……青様ァ……お達者で……おらあああッ!!ゾンビ来んかい!!釘バットでいてもうたるわ!!!!』 「そうだったの、貴方大丈夫なの、まだ本調子じゃないでしょうに、」 「大丈夫じゃない」 べりっっっ 「貴様っ、僕の小ガラスに何をっ」 「お前に返しただけだ、赤紫」 「やだ~零様~ふえええんっ」 「誰だか知らないが感謝する」 「お前の仲間の群青なんだが」 「アタシの部下に手荒い真似しないでくれる、群青?」 なんて顔してるのかしら、ヒーローさん。 拗ねてるこどもみたい。 貴方、そんなに素直な坊やだったかしら。 *** ちゅぅぅぅうっっ 「んーーーーーっっ……やだやだやだっ……ふええんっ……零様ぁ……助けて零様ぁっっ」 「違うよね、七狗……?」 「んぶぶぶぶっっ!」 惚れ薬だなんて厄介な毒を浴びてしまって、なんて可哀想な小ガラス。 本当は僕のことを恋い焦がれているのに、あんな野蛮オネエを好きだと思い込んでしまうなんて。 とりあえずその唇を消毒してあげる。 そして全身全霊でもって教えてあげる。 君の心も体も僕のものだって。 *** 「やだーーーー!!助けて、んぶっ、んぶぶっ、ぷはぁ、っ、うぇぇんっ、零様ぁぁっっ!!」 「その唇で呼ぶべきは僕の名だよね、七狗……?」 「うえええんっ……零様零様ぁ……っ」 「ちょっと、あの変態ヒーロー……やりすぎよ、」 「俺を見てくれ、零」 本気を出せばたとえヒーローだろうと一発でノックアウトできる。 だけど。 そんな子犬みたいな眼差しで精一杯縋られたら。 「……俺だけを見てくれ、お願いだ……好きなんだ」 「ッ……ン、群青……言われなくたって最初っからわかってたわよ……」 「……零が好きだ、離したくない、離れたくない……」 まさかお仲間がいる場でどうしようもなく盛って乗っかってくるなんて。 子犬というより発情期の駄犬ってところかしら。 「困った戦隊のブレインさんね……嫉妬の炎で思考回路がショートしたかしら」 「……した、ショートした、君のことしか考えられない……」 熱心に抉じ開けて奥に擦りつけられる火照った塊。 いつゾンビが来るかもわからない切羽詰まった状況下、本能のままに、この身を求めてくる若い雄。 「俺とずっといっしょにいてくれ、零」 こんなに野蛮で劇的なプロポーズ、他にあるかしら。 *** 「お、覚えてない……惚れ薬浴びたあとのことが思い出せないぞ!」 「それでいいの、七狗」 「零様なんで服が乱れてるの? どれだけ怪力奮ってもネクタイだって緩めないのに」 「早いとこバリケード修復しなきゃね」 「俺も尽力する、零」 「青様ァ……やっぱり素敵ィ……」 「抗体なんかどうでもいい、僕はやっぱり七狗のそばから離れないよ、ゾンビになっても離れないよ」 「カア」 ゾンビ怖ぇし赤紫もっと怖ぇし群青とかよくわかんないけど。 零様も伍魅もカラスもいるし。 なんてったって冷蔵庫のレモンパイは無事だったから、うん、俺様生きててよかった!! end

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