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五月雨は初恋色/非DT×無邪気わんこDT

「このコ、ほら、下川さんちよりちょっと上ったトコ、木蓮が綺麗な仲村さんち、あそこのお孫さんだって、ご両親がお仕事の都合で北海道だとかで、こっちに一人で引っ越してきたのよね? エライわねー、舜、あんた同じ学年だから明日ちゃんと学校まで連れてってやんなさいよ? ため池に落っこちたりなんかしたらアレだから!」 友人宅から帰ってきたばかりの桂木舜(かつらぎしゅん)は田んぼ前で母親と出くわし、その言葉に「はぁ?」としかめっ面に。 小学生のガキならまだしも。 高一でため池に落ちる心配はいらねーだろ。 翌日に三学期の始業式を控えた舜は母親の隣にいる彼を見た。 彼は興味津々に舜に視線を向けていた。 「よろしくっっ舜クンっっおれ仲村爽真っっ!」 ぱっちり目で小柄な爽真(そうま)に期待いっぱいに見つめられ、自己紹介までされた舜は、ほんの一瞬自分の目を疑った。 今コイツの背後で尻尾がブンブン揺れてたよーな。 いや、気のせいか。 つーか、コイツ、どっかで見たことあるよーな? そんなこんなで高一の三学期始業式、舜は爽真を学校まで仏頂面で案内し、まさかの同クラス、ご近所さんということで担任から世話役まで押しつけられることになり。 「舜クン! おれすっごいおっきなカタツムリ見たよ!」 高校二年、またも同じクラスになった爽真と学校生活を共にする日々にあった。 そう、ここは辺境、「ど」がついてもおかしくないくらいの田舎。 おっきなカタツムリなんか珍しくない、夕方になればコウモリだって飛び回るし、その辺の川には魚が泳いでいるし、田んぼの用水路を覗けばおたまじゃくしだってうじゃうじゃいる。 「すっごいおっきいカタツムリだった! カタツムリってちっちゃいのかと思ってた!」 「あー。うるせぇ。しっしっ」 「これくらいだよ!? これくらい!!」 田んぼ沿いの通学路、朝日に照らされて燦々と輝く稲、ビニールハウス。 「もしかしてあれってエスカルゴかなぁ?」 「今度食ってみろよ」 「うん!」 「バーカ……こんな田舎マジで出てやる、田んぼもビニハもグロい生きモンもいねートコで大学生活送ってやる」 「おれはココ好きだよ!」 ちんまりした爽真は大股で歩いている舜の隣に小走りでついていく。 182センチの舜はそんな爽真をじろりと見下ろして、デコピン。 「痛いっ」 「俺は嫌いなんだよ」 徒歩二十分でチャリ禁学校に到着。 凸凹コンビとして知れている爽真と舜をクラスメートは笑顔で出迎える、舜は浅く頷いて速やかに着席し、反対に爽真は「おはよーっっ」と笑顔を振りまいては飴ちゃんといったお菓子を手渡されている。 女子の一人に頭をヨシヨシ撫でられるとまっかになって、駆け足で舜の元へ。 「今日もこんなもらった!」 「アイツお前に気ぃあんじゃねーの」 「えっっ!?」 「同じクラスになってほぼ毎日お前の頭撫でてんだろ」 「えっ? そうだっけ?」 さらにまっかになって自分の頭をぐしゃぐしゃ乱す爽真を舜は鼻で笑った。 「童貞卒業させてくれんじゃねーの?」 どまっかになった爽真。 「その調子だとキスもしてねーんだろ、お前」 「しっしたもん!」 「へー?」 「……したもん……」 担任が教室にやってきた。 中学時代に童貞卒業してこれまで二人と付き合った経験のある舜に、爽真は、銀紙に包まれたチョコレートを投げつけて自分の席に戻っていった。 へぇ、前の学校でカノジョいたんだ、アイツ。 遊びで、は、シなさそうだしな。 「桂木ーホームルーム中にチョコを食うなー」 慌ただしい四月が過ぎて。 五月のある日の帰り道。 「うわぁんっ雷鳴ってるっこわぃぃっ」 「うわッしがみつくんじゃねぇッ走りづれぇだろーが!」 ゲコゲコゲコゲコ急な五月雨にカエルが輪唱している。 一時間前は晴れ渡っていたのに、あっという間に崩れた空模様、大雨に雷、傘を持ってきていなかった舜と爽真はダッシュで我が家を目指した。 「おい、なんでコッチ来んだよ?」 「ウチ遠いよぉっっ雷当たっちゃぅぅっっ」 「バカ……遠いって、すぐソコだろ……」 雷に怯えた爽真は舜につられて桂木宅の軒先までやってくると、迫力漲るガッシャーーーンなる雷鳴に「ひゃあっ」を悲鳴を上げ、舜にしがみついた。 子犬かよ。 「……舜クン、怖ぃぃ……」 あれ。 前にもコイツとこんなことあったか? ガッシャーーーーーン!! 「ひーっおっおばさーん! 開けてぇぇぇっっ」 引き戸を叩く爽真に呆れ、舜は、鍵を取り出した。 今日は母親が役場の売店にパートの日、よって長男の自分が夕飯担当、小学生の弟はミニバスケの練習中でまだ帰宅していない……。 「うわぁん……濡れちゃった」 タオルを手にして縁側に戻った舜は不意に足を止めた。 頭の天辺から爪先まで雨に濡れた状態でずかずかお邪魔するのは控え、爽真は縁側で待機していた。 半袖シャツがぴたりと肌に張り付いている。 まだ四時過ぎなのに薄暗く、濡れて、妙に瑞々しく見える肌。 いや、生々しいと言うべきか。 後ろ髪のはりついたうなじ。 はっきり浮き出た肩甲骨のライン。 ひんやり冷えきった二の腕。 なんだこれ。 頭、大丈夫かよ、俺。 「あっ、舜クン、タオル持ってきてくれたの?」 なんでコイツにムラムラすんだよ。 「舜クン?」 睫毛まで満遍なくびっしょりな、ぱっちり目。 冷えた肌が青ざめているのに対して色艶の増した唇。 「どしたの? 舜クンも雷怖いの?」 「ッ……怖くねぇよ」 動揺する舜は気持ちを落ち着かせようと、一端爽真から視線を外し、ぶっきらぼうにタオルを差し出した。 爽真は気にもせずにタオルを受け取ろうと、 ガッシャーーーーーン!!!! 稲光とほぼ同時に轟いた雷鳴。 さすがに舜もギクリとした。 爽真は、と言うと。 「ひゃあ!」 また悲鳴を上げて真正面から舜にしがみついてきた。 「ッ、おい、」 「お、落ちたぁ……おれんちに落ちたッ」 「そこまで近くねぇよ……つーか離れ、」 ガッシャーーーーーン!!!! 「わぁぁぁっ」 ぱにくった爽真はさらにぎゅうぎゅう舜にしがみつく、というより、完全に抱きついてきた。 ひどくなる雨音。 カエルの輪唱も掻き消される。 なんだこれ。 なんなんだよ。 「……離れろ」 不用意な密着に焦る余り苛立った声が舜の口から洩れた。 ぱにくっていた爽真は我に返る。 明らかに怒っているクラスメートにビクリと身を竦ませ、おずおず、胸に埋めていた顔をぎこちなく上げる。 「ご、ごめん、舜クン……ごめんね?」 爽真と視線が重なった瞬間。 どうしても欲求が抑えきれずに舜は色めく唇に唇を……。 「あのときもこんなに濡れたよね」

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