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五月雨は初恋色-3

「今、桂木って誰とも付き合ってないよね……? ウチと付き合うとか、どーかな……? だめ……?」 放課後、人気のない校舎の片隅。 呼び出された時点で予感があった舜は去年同じクラスだった女子の旋毛を言葉少なめに見下ろしていた。 笑いのツボがいっしょ、見るドラマや聞く音楽も似通っていて、性格も見た目も割と好み、そして申し分ないバスト。 中学時代に童貞を卒業し、二人の異性と交際経験がある舜。 以前の彼ならば即お付き合いを始めていたに違いない。 「ごめんな」 見下ろしていた旋毛を撫でようとし、ギリギリのところで利き手を止めた舜は丁重にお断りした。 「ど」がついてもおかしくないくらいの田舎。 裏山から風に乗って運ばれてくる新緑の香りに満ち満ちた渡り廊下を突き進み、帰り支度のため舜が教室へ戻ってみれば。 「あっ、舜クン……っ」 一人ポツンと残っていたクラスメート、ご近所さんでもある爽真に出迎えられた。 「お、おかえりっ、話長かったねッ?」 「十分も経ってねぇけどな」 「ほんとっ? あ、ほんとだっ……めちゃめちゃ長く感じたんだけどなぁ」 ぱっちり目でちんまりした爽真は愛犬さながらに舜の元へ駆け寄り、お耳と尻尾の幻覚が見えた舜は苦笑する。 「帰っか」 「あっ、うん、帰るっ……うん」 爽真の奴、気になってるのバレバレだな。 「腹へったな」 「うーん、別に……あのさ、舜クン、えっと」 「何だよ」 「っ……またおっきなカタツムリ見たよ、この間!」 舜は笑い出しそうになるのを堪える。 同時に、何があったのか知りたいのに追求に二の足を踏んでいる爽真の不器用ぶりを可愛く思う。 学校を出、ガードレール向こうで田んぼがなだらかに連なる帰り道を進む間、爽真はずっとそんな調子だった。 「あのさっ……さっき……えっと、教室にすっごくおっきな蜂入ってきてビックリした!」 高校二年生にしては見た目も中身もこどもじみているクラスメート。 山に囲まれたビニールハウスと田んぼだらけの辺境に唯一ある高校へ彼が転校してきたのは一年の三学期始業式のことだった。 『ふぁ……ぁ……舜、クン……っ』 そんな爽真とエッチなコトをしてしまったのは五月に入って間もなくのことだった。 「なぁ、爽真」 「なにっっ!?」 何があったのか教えてくれるのかと期待いっぱいの眼差しで見上げてきた爽真に、舜は、問う。 「今日もウチ来るよな」 爽真はぱっちり目をさらに大きく見開かせた。 すべすべした頬を見る間に紅潮させて、斜め下を向いて……コクンと頷いた。 濃厚な五月雨にそそのかされてからというもの、放課後、舜と爽真はエッチなコトを度々こっそり……。 「ま、待って待って、やっぱり待ってーーー!!」 舜は目を見張らせた。 母親はパートへ、小学生の弟はミニバスケの練習中で誰もいない自宅、日当たりのいい二階の部屋。 ベッドに押し倒してキスしようとすれば爽真に珍しく抵抗された。 「やっぱり気になるっっ……さっき……舜クン、あのコとどんな話……?」 半袖シャツのボタンを途中まで外されて首筋を無防備に曝した爽真は。 腕捲りされた舜の長袖シャツをぎゅっと掴んだ。 「告られた」 「っっっっ」 ガチで犬みてぇ、爽真。 「放課後にメールじゃなくわざわざ呼び出し、それしかねーだろ」 ぱっちり目をうるうるさせて素直に動揺している爽真に煽られて舜がキスしようとすれば。 「もがっ」 両手で口を塞がれた。 わざとらしく不機嫌そうに睨んでやれば爽真は「ひっ」と怯えたものの、積極的な唇を食い止めた両手はそのままに「そ、それで……っ?」と問いかけてきた。 「舜クン、なんて返事したの……?」 「もが、そりゃあ、かわいーし、性格いーし」 「っ……」 「おっぱいだってな。あんなだし」 「っ、っ、っ……」 「断った」 くぐもった声ながらもちゃんと聞き取ることができた爽真は目を見開かせた。 「……よかったぁ……」 昼休みに「話がある」とわざわざ言いにきた隣のクラスの可愛い女子。 目の前で放課後のアポをとられたときから胸に引き摺っていた不安が打ち消されて、単純な爽真は、本音をポロリして情けない笑顔を浮かべた。 「露骨にほっとすんな」 舜は力が弱まった両手を引き剥がして完全に爽真に覆いかぶさる。 「させろ、キス」 「っ……うん……」 「また止めやがったら怒るぞ」 「だ……っだいたい怒ってるもん、舜クンっ、おれのことバカバカ言ってガキ扱いして……っ……ン……!」

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