167 / 611

雨のち幼馴染み-7

「プール行ったのか?」 夏休みも残り僅か。 二学期を前に放置していた宿題をどう片づけようか悩み出す頃。 幼馴染みである弘毅の家に涼みにお邪魔し、リビングでカップアイスをご馳走になっていた真尋はちょっと目を見張らせた。 「誰と?」 自然に染められた茶髪、日に焼けた褐色肌の男前幼馴染み。 それまでゆるゆるなムードだったはずが急にトーンの変わった声に緊張感が発生したような。 「誰って、クラスいっしょの友達とか、ですけど」 真尋がそう答えれば弘毅はすでに空になったカップに視線を落とした。 「ふぅん……」 「週末、お前バイトで忙しいみたいだったし。もう声かけなかったっていうか」 「……そう」 Tシャツの袖を捲り上げ、その辺の運動部よりも見栄えのいい二の腕を剥き出しに、スラリと長い足を緩く開いてイスに座った弘毅は。 瞬く間に明らかにテンションがガタ落ちしていた。 隣に座っていた真尋はそんな様子に吹き出した。 「なに、もしかしてしょ気てる?」 半笑いの顔でスプーンを咥えたまま横顔を覗き込めば弘毅はポツリと言う。 「……俺もお前とプール行きたかった」 なにこいつ。 でっかい犬か。 ていうか弘毅でもしょ気るコトあるんだ、イイコちゃん気質で何でもこなすあの優等生クンがねー。 「ガキじゃないんだし? そんくらいでしょ気んの、ダサいよ?」 「……今度の週末にある川祭り」 「へ?」 「俺と行ってくれ、真尋」 母親がカウンターの向こうで夕飯の仕込みをしている中、弘毅は不意に真尋の手首を掴んだ。 昔からお世話になっている幼馴染みの家族がそばにいるという状況下、不意討ちの接触に動揺した真尋はつい反射的に頷いてしまう。 骨まで伝わるような掌の熱に頬を紅潮させて。 「楽しみだな」 「べ……別に、花火とか人多くてあんま好きじゃないし、むしろ苦手だし」 「俺はすごく楽しみだよ」 「……ていうか、手、離してください」 最後は小声でキッチンにいる幼馴染みの母親に聞かれないよう注意した。 『俺、お前がいい、真尋』 雨の季節、真尋はそれまで秘密にしていた想いを弘毅に打ち明けられていた。 それからというもの。 「ば……ッだから下におばちゃんいる時に盛るなッ……あ、あ……っ」 「最初の日もいただろ?」 「あんときはッ……雨降ってたから声とか……誤魔化せた」 「庭の蝉の鳴き声がうるさいから」 「あ、ッ……ぅぅ……ッいきなり、ソコとか……むりッ」 「母さんには聞こえないよ」 ただの幼馴染みという枠が揺らぎ始めた。 性的な関係が新たに始まった。

ともだちにシェアしよう!