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beautiful vampire/神父×吸血鬼

逃げて、逃げて、疲れ果てて。 凍てついた夜、海よりも深い森、音もなく真っ白な雪に沈んだ。 そんな幼い少年をゆっくりと抱き上げた、雪よりも白い、しなやかな〈かいな〉。 「死神とワルツでもしたいのか、貴様」 太陽の光を閉ざす〈さまよいの森〉奥深くに聳えるは吸血鬼ロザが棲まう廃墟の如き館。 真紅の花弁彩る荊が朽ちかけの壁面を縦横無尽に這い、牙の欠けたガーゴイルが門番を務める、まるで幽霊の溜まり場さながらなゴシックかつホラーな雰囲気。 「おーい、ロザー!! 起きてるかー!? 遊びにきたぞー!!」 そんな粛々たる雰囲気を颯爽とぶち壊す、明朗快活なるデカい声。 繊細な装飾が施された門の前に一人の男が佇んでいた。 神父装束に草臥れたコートを羽織った、年若い、赤髪の、やたら見栄えのいいシルエットを持つ男。 「おーい、フリエンド、お前のご主人様はお目覚めかー!?」 「ロザ様のお耳に障る、もう少し声量を絞るのじゃ、ダリア神父殿」 ガーゴイルの頭に乗っかっていた、ロザの下僕カラス、フリエンドは見慣れ過ぎた客人へ注意した。 ダリア神父は楽しげに笑って古めかしいノッカーに手をかける。 ギィィィィィ…………と館中に鳴り響くような音色を響かせ、蜘蛛の巣だらけの通路を歩み、埃だらけの階段を上り、奥の間へ。 美しい調度品もドレープ豊かな天蓋つきの寝台も「それはないだろう」と言いたくなるほどに蜘蛛の巣と埃塗れ。 しかし唯一手入れと掃除を怠らない立派な棺桶が床上にどーんと置かれていた。 「貴様の奏でる騒音のおかげで貴重な昼寝が中断された」 その上に足を組んで腰掛けるは館の主、ロザだ。 撫でつけられた髪は濡れたような漆黒の色、蒼白な肌は蝋じみていて、冴え冴えとしたアイスブルーの双眸は滾々と湧き出る泉を彷彿とさせる。 シルクのシャツに手触り抜群なベルベットのコートを纏ったロザは鮮血を浴びたような唇で始終笑顔のダリアを罵倒した。 「この無礼者神父が、さっさと麓の村に戻って嵐が来れば瞬く間に吹っ飛びそうな教会で間抜けな阿呆面の村人どもとお祈りでも唱えていろ」 「なぁ、今夜は悪霊を追っ払うお祭りがあるんだ、ロザも来いよ」 「……私の話を聞いていたか、無礼者神父?」

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