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咲いた、咲いた、恋の花/堅物男前高校生×強気ビッチ高校生

「だりぃ」 四月、通い始めたばかりの高校、特に馴染むつもりもない教室の窓際で。 有崎光莉(ありさきひかり)は退屈そうに夕方の校庭を見下ろしていた。 誰かが待っているわけでもない自宅に帰るのも億劫で。 お手軽便利な肉体関係で繋がっている不特定多数にメールする気にもなれずに。 「生きんの、つまんな」 入学式早々注意されたホワイトカラーの髪を西日に染め、光莉は、三階教室の真下に連なる花壇の花をぼんやり眺めていた。 あれ、なんだろ、なんて花だっけ、赤白黄色、きれいだな~って、やっば、ど忘れした。 「なんだっけ、えーと」 誰もいない放課後の教室、危なっかしげに窓の外へ身を乗り出して花壇を繁々と見つめていたら。 いきなり、だった。 片腕をとられたかと思えば容赦なく真後ろへ引っ張られた。 驚いて目をやれば。 彼が立っていた。 「何してるんだ、有崎」 御山千景(みやまちかげ)。 入学式早々教師に注意されて注目を浴びていた隣クラスの同級生が自殺しかけていると勘違いし、一切の迷いなく廊下から止めに入ってきた、至極真っ当な倫理観を持つ男子高校生。 「自殺なんてやめろ」 光莉はキョトンした。 千景は光莉を知っていたが、クラスメートの顔すら把握していない光莉が隣教室の同級生を知っているはずもなく、急に現れた彼にただただ呆気にとられた。 「何か悩みでもあるのか?」 誰これ。 あ。 割とかっこいー。かも。 「俺にできることなら何でもするから、今みたいなこと、するな」 光莉はまじまじと上背ある千景を見上げた。 「何でも?」 問い返されて頷いた千景に光莉は擦り寄った。 今にもゴロゴロ喉を鳴らしそうな猫みたいに。 「じゃあ、せっくす、しよ?」 光莉は父子家庭だった。 唯一の家族は出張や残業、恋人との付き合いで多忙であり、平日はおろか休日でも滅多に顔を合わせない。 取り残された虚しさから光莉は中学生にして人肌に拠り所を求めた。 SNSを通じて見知らぬ相手と何回も会ってはその場限りの出来合いじみた性行為に夢中になった。 おかげで同年代の周囲よりも性体験には富んでいた。 テクにも自信があった。 これまで何回か同級生とシたこともあり、簡単に勃たせてやることができていた、今回だってラクショーだと踏んでいた……。 「なんで勃たねーの」 廊下から死角になる教室の隅っこで。 床にしゃがみ込んでいた光莉はいつまで経っても勃ち上がらない同級生の性器にとうとうしかめっ面と化す。 「だから。言っただろ」 シてくれないと死ぬと脅迫されて止む無く従った千景はため息交じりに言った。 「こんなこと無理だ」 「俺のフェラテクで勃起しない奴なんて今までいなかったのに」 「今まで、って。お前、こういうことばっかしてきたのか?」 言葉の端々に説教の気がある千景を光莉は睨めあげた。 「このフニャチンやろー、てめぇインポだろ」 「もうやめろ、こんなこと、有崎」 「うるさ。何でもするって言ったくせに。これじゃー、せっくす、できないじゃん、うそつき」 諦めた光莉は口元を拭ってスクバもそのままに教室を飛び出した。 「ろくに知らないお前にあんなことされて勃起するわけないだろ」 制服を正し、二人分のスクバを持って隣にすぐに追い着いた千景が歩調を合わせてついてくる。 「ついてくんな」 「有崎、バス? 電車か?」 「バス」 「俺も。同じバス停かもな、一緒に帰ろう」 「チューリップ」 「え?」 「思い出した!! チューリップ!!」 今度は千景がキョトンし、そんな同級生からスクバを奪い取った光莉は駆け足でその場から走り去った……。

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