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咲いた、咲いた、恋の花-2

「有崎」 その日を境にして千景は光莉にやたら話しかけてくるようになった。 朝、休み時間、昼休み、足繁く隣教室に通っては膨れっ面の光莉の元へ。 周囲から「あんなん、ほっとけよ」とアドバイスを頻繁に受けても無愛想な同級生に寄り添おうとした。 「一緒のクラスだな、光莉」 高二に進級し、同じクラスになった。 最初は千景のことをとことん煙たがっていた光莉は彼がクラスメートになったことに正直なところ。 「フニャチン騒動から一年かー、早、あれからちゃんと勃起するよーになった?」 やったぁ。 千景といっしょ。 修学旅行とかくっそめんどいって思ってたけど、千景と同じ班ならイイ、朝も昼も夜もいっしょいれるなんて夢みてーじゃん。 「別に騒動になってない」 「フン」 ホワイトカラーだった髪は黒一色に落ち着いた。 どこにいても刺々しかった眼差しはいつの間にかトゲを落っことして少し柔らかくなった。 爛れた連絡網が満載だったメールアプリは見守る千景を前にアンインストールされた。 そう、あのフニャチン騒動……光莉が自殺しかけていると千景が勘違いしたあの日から。 光莉は少しずつ変わって行った。 人生にも性生活にも飽き飽きしていた自分に心から寄り添ってくれた同級生のおかげで。 「修学旅行、北海道、楽しみだな」 「べーつーに」 一年間の日程表に目を通しているフリをして、光莉は、向かい側でちゃんと目を通している千景をプリント越しにそっと窺った。 うん、楽しみ。 千景も俺と同じ、楽しみでいてくれて嬉しい、 「一緒の班になろうよ、御山くん、有崎くん」 休み時間、席を挟んで向かい合っていた光莉と千景に話しかけてきた女子がいた。 丸山澄香(まるやますみか)。 見た目も性格もいい、男女問わず親しまれているクラスメートだった。 去年も同じクラスだった光莉は、一年生の間話しかけられた記憶がなく、いつになく積極的にお誘いしてきた彼女をプリントで完全に遮った。 「御山くんリーダーだったら頼もしいし」 「それは俺の台詞。丸山だったら安心できる」 「えぇ……ありがと……」 あーーーーーーー聞きたくない。 だって。だって。 『タイプの女子か? 特には』 『教えてくんないの、トモダチなのに、俺のこと信じてくんないの、俺なんかに好きな人の情報なんか知られたくないわけか、』 『光莉のクラスの丸山は可愛いと思う』 丸山澄香って千景のタイプなんだよ。 これじゃー、もー、確実じゃん。 二人、修学旅行か、それまでにデキちゃうじゃん。 そんなノリだもん。 これ、明らかに前兆だもん、前触れだもん。 二人が付き合うことを不吉なものとして捉えた光莉は、耐えられず、その場から立ち去ろうとしたが。 タイプだと言っていた女子と付き合えることになるかもしれない、それは千景にとってただただ幸運だろう、そう思って。 「二人、リーダーになれば。そしたら俺なーんにもしないで済む」 プリント越しにそう言えば丸山澄香にクスクス笑われ、千景からは「光莉は副リーダーになってサポートしてくれないと」と真面目に返された。 あーあ。 千景、俺なんかより、丸山澄香といっしょなれて嬉しいんだろーな。 あーあ。

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