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咲いた、咲いた、恋の花-3
去年の秋と冬の境目から光莉の右手にこびりつくようになった罪悪感。
「ん……ん……っはぁ……っ」
人肌にがむしゃらに縋ることを断った代わりに自身を慰める回数がぐっと増えた。
放課後、帰宅するなり、自分のベッドで。
制服を乱しただけの格好で立て続けに。
ちらばるティッシュ。
脳内に溢れ返るはしたない夢想の数々。
クッションに片頬を押しつけてヨダレを垂れ流していた光莉は霞んだ双眸で壁の向こうを見つめた。
「ちか、げ……っ」
「ねぇ、有崎くん」
昼休み、千景が購買へ弁当を買いに行っている間のことだった。
「今日の放課後、五時半くらい、ここでちょっと話せる?」
数ヶ月前から毎朝父親と自分のお弁当を作るようになっていた光莉は、ランチボックスの蓋を持ったまま硬直した。
「二人だけで話したいんだけど。いい?」
「あーーーー……うん」
何とか光莉が返事をすれば丸山澄香はにこっと笑って友達の待つ隣教室へ、入れ替わりに千景が購買から戻ってきた。
「今、丸山と何か話してたか?」
「べ、別に」
あーあ。
あーあ。
確実だこれ。
きっと聞かれるんだ、今、千景に付き合ってる奴がいるのかどーか。
で、いないって答えれば、トモダチの俺から私の気持ち伝えてくれないかな、とか言われるんだ。
「光莉、食べないのか?」
「ッ……食べるよ!」
よかったね、千景、おめでと。
やっと童貞卒業できんじゃない。
フニャチン脱皮できんじゃない。
「あー、うま、俺って天才」
丸山澄香と付き合っても俺のことちょこっとくらいは構ってくれよな。
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