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ぷりーず・ぷりーず・みー!-2

弓哉には六年生の彼女がいた。 告白されて、ミニバスのない日は公園や図書館で放課後デート、互いの家に遊びにいくこともあった。 『カノジョとキスした?』 次が美術の授業で移動していたとき。 いきなり伊葡己に腕をとられたかと思えば人気のない階段の踊り場まで連れていかれた。 戸惑いながらも首を左右に振ってちゃんと答えた弓哉に伊葡己は声を立てずに笑った。 『もう美術始まるから行かなきゃ、藍原』 『おれね、ずっとかぢってみたかったんだ』 『え?』 かぢりたいって、何を? 踊り場に立っていた弓哉。 一段高いところにいた伊葡己。 クラスで一番背が高くてリーダー的存在の彼に彼はキスをした。 『こんにゃく苦手、ゆーくんにあげる』 それまで単独行動に突っ走っていた伊葡己に弓哉は懐かれるようになった。 体育や化学の授業では常に同じ班、遠足で乗るバスは行き帰り隣の席、夏休み行事のキャンプではいっしょにカレーを作ったり。 『ボール遊び、おつかれさま』 ミニバスが終わって友達と帰ろうとしていたら待ち構えていた伊葡己に強引に腕をとられて下校したり。 ミニバスのない放課後や土日に一方的に約束をとりつけられて会うようになったり。 『似合う?』 時々、伊葡己は待ち合わせ場所に女装してやってきた。 ガーリーだったりパンクだったり、どれも恐ろしく似合っていた、街中でも人目を引くほどにすこぶるかわいかった。 『親、何も言わないの』 『特に。パパもママも忙しーし。おれ、興味ある服は何でも着てみたいんだよね』 藍原ってなんなんだろう。 どの枠にもあてはまらない。 なんか神様にえこひいきされてるみたいだ。 六年生になり、年上彼女とは自然消滅を迎え、また同じクラスになった伊葡己に弓哉はより懐かれるようになった。 『ゆみくんとぜんっぜん遊べてないよ、おれら』 『今年の川祭りも花火大会もいぶ菌同伴?』 『いぶ菌って言い方は、さ、ちょっと可哀想じゃ?』 仲のいい友達やミニバス仲間の多くは伊葡己のことをよく思っておらず困ることもあったが。 『ゆーくん、こっち』 学校や帰り道、ふとした瞬間にできあがる束の間の死角。 住宅街の外れにある神社の境内の隅っこ。 買い物に付き合わされて歩き回ったファッションビルのエレベーター。 伊葡己にキスされた。 去年よりも身長が伸びて目線の高さが同じになったクラスメートと、ほぼ毎日。 『もう何回目かな』 『わかんない……数えてない』 真正面からくっついてごろごろしていた伊葡己は、すべすべした紅潮ほっぺたを両手で挟み込み、弓哉に囁いた。 『もうすぐ365回目』

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