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残念(陰)男子にされたい(陽)男子/コミュ障根暗×天然えろあほ根明

梶本朔(かじもとさく)は残念男子だ。 真っ黒な長い前髪で片目を隠し、露になった一重目の下にはインソムニアなのかと疑われる黒ずんだ隈がびっしり。 日光に一度も当たったことのないような病的な白さで、陰気くさく、猫背。 存在感がない。 生命線も薄い。 「……梶本です」 新しい高校への転校初日、朔を前にしたクラスメートの誰かがこんな会話を交わす。 「きたろー?」 「ゆうれい?」 そんなあだ名はこれまでごまんとつけられてきた。 今更傷ついてもいられず、新しい教室に何かしら期待を抱くでもなく、朔は担任に指差された窓際の席へ向かう。 校庭に猫がいる、後で撫でに行ってみるか……。 「ねぇ!」 窓から外を眺めていた朔は視線を移動させた。 隣に座るクラスメートがこちらを見つめている。 「俺、遠賀! 遠賀一紀(おんがいっき)!」 いきなりハイテンションな自己紹介に朔の苦手意識なるものがぶわりと頭を擡げた。 明るい茶髪、それなりに整った顔立ち、両耳にピアス、手首になんかじゃらじゃらしたもの。 明らかに陽に属する外見。 「いっきって変な名前でしょ? 小学生ん時なんか牛乳一気飲みしろってしょっちゅう言われてさぁ」 一人が好きな朔は会話が苦手だ。 よって彼は無言のまま遠賀というクラスメートから顔を背けた。 「うわ、感じワル」 「ゆうれいなんかほっとけよ、いっき」 そっぽを向かれた遠賀は朔の真っ黒な髪をじっと眺めていた。 昼休み、さっさと昼食を食べて校庭に出た朔がお目当ての猫を撫でていたら。 「梶本君!!」 何故か遠賀が後を追ってやってきた。 「梶本君! 梶本君!」 何故か遠賀は朔に付き纏った。 体育の授業でも準備運動のパートナーになりたがったり、特別教室を案内したがったり、消しゴムを貸したがったり。 「梶本君の生命線うっす!」 仕舞いには無断で手をとって観察してきたり。 朔は戸惑うばかりだ。 戸惑う余り、具合が悪くなった。 「転校初日にすみません、早退してもいいでしょうか、先生」 「梶本君!」 「……どうしてうちの場所を知ってるんだ……」

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