223 / 596

選ばれし中二病設定メシアは敵にぞっこんで候/敵×主人公

「誰も死なせない! この世界のためにも!」 それはある学園で幕を開けた。 かつてその地に封じられた呪われし腐り果てた神「人魚女(にんぎょめ)」を蘇らせようと、黒魔術を信仰する「ヴァーミリオン」幹部の影守(かげもり)とその配下は教師として潜り込み、生贄として生徒を捧げ禁断の復活魔方陣を仕上げるつもりでいた。 彼らの計画を阻止したのは謎の転校生、神狩由堕(かみかりゆだ)。 由堕は妖刀「十六夜」で不届きなる神の成れの果て、呪腐神(じゅふしん)を討ち続ける、「始まりの日」からこの世界を支え続けている創世樹に選ばれし反救世主(メシア)だった。 生贄として捕らえられていた生徒達が由堕に解放され、未完成な魔方陣で蘇った「人魚女」は学園どころかこの世界の万物すべてを壊そうとした。 「十六夜」を解き放った由堕は見事、呪腐神の暴走を食い止めた。 戦いを共にしてきた心強い仲間達と協力して「人魚女」討伐に成功した。 学園には、世界には、穏やかな平和が戻り。 戦いの幕は閉ざされた……? 銭湯から出てきた影守はばさばさの黒髪に丸眼鏡、半纏姿に下駄をつっかけて夜道を行く。 「人魚女」失態の件で「ヴァーミリオン」から命を狙われているという緊迫した状況下にあるようにはとても見えない。 「豆腐、一丁、お願いします」 豆腐屋のラッパが聞こえたので、今夜は湯豆腐にして熱燗でもぐいっとやるかと、自転車をのんびり漕いでいたおじさんの元へ駆け寄り、タライから洗面器に豆腐を一丁掬ってもらった。 野良猫や飼い犬があちこちでわんわんにゃあにゃあ鳴く古ぼけた住宅街を下駄でかつかつ進んでいくと。 これまた古ぼけた二階建ての下宿じみたアパートの階段をかつんかつん上って、四畳半の我が家へ帰宅しようと、鍵をかける必要もない立て付けの悪いドアを開け放った。 「あ、おかえりぃ」 暗がりの中心にいた侵入者に影守は危うく豆腐の入った洗面器を落っことしそうになった。 「早く電球買ってくれよ、影守サン」 暗いのに、その不法侵入男子は、きらきら輝いて見えるようだった。 戦隊ものやヒーローマンガの主人公まるでそのもの。 着崩れした学ランで、どこにでもいそうな特に華のない外見でありながら、味方も敵も惹きつけるカリスマ的魅力に溢れた感じ。 「……また来たのか、神狩」 選ばれし反救世主、神狩由堕は玄関に突っ立ったままでいる影守に「ふへへ」と笑った。

ともだちにシェアしよう!