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キミは愛しのつばさちゃん号-2

あれ、確認したつもりだったのに、俺ってば見逃してた? もしかして横になって居眠りしてたのかな? 狭い通路を進んで、詰めれば五人座れる後部座席へ、そこに座っている彼の前へと近づいた。 「びっくりしたよね、こんな所まで連れてこられて、大丈夫?」 高校生か大学生くらいだろうか。 オレンジ色の派手な髪。 カラコンでもいれているのか、やたら青い瞳。 作業着じみた、ところどころちょっと煤けた、白のツナギ服。 「……颯真さん」 颯真はぱちぱち瞬きした。 運賃パネルの隣には名札をつけている、よって氏名を知られていることに特に驚く必要はない。 全く見覚えのない乗客だった。 こんなに目立つ外見なら一度の利用だけでも記憶に残りそうだ。 恐らく初対面の相手から下の名前を意味深に呼ばれるのは、どうしたって、不自然だ。 「えっと、一人で帰れる、よね?」 「颯真さん」 夏用の半袖制服を着ていた颯真の、腕時計をつけていない方の手首を、彼は掴んだ。 ぎゅっと込められる力。 颯真は目を見張らせた。 「ぼく、つばさ、です」

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