276 / 620
ぎぶみーらんじぇりー-2
「こ、こんにちは、浩哉せんせい」
「こんにちは。さっき弾丸みたいな勢いで走っていく彩羽ちゃんの後ろ姿が見えたんだけど」
「あっっ……えーと、急用ができちゃったみたいで、でもすぐに帰ってくると思います!」
「葵くん、どうしたの」
玄関床に立つカテキョの畠中浩哉 にまじまじと見つめられて葵は立ち竦む。
「この時間にパジャマって。もしかして具合悪いの?」
涼しげに整った顔立ちにメタルフレームの眼鏡がよく似合うイケメンカテキョの浩哉に心配されて葵は赤面した。
「ね、寝過ごしました……っ」
「え?」
はっ、しまった、三時まで寝てるなんてテスト後の彩羽じゃあるまいし!
「そうなんだ」
ひ、浩哉せんせいに呆れられる……っっ。
「昨日、夜更かししたのかな。おはようございます」
「お……おはようございます……」
微笑ましそうにしている浩哉を前にして、葵は、双子の姉のことを心の底から横暴だと胸の内で愚痴るのだった……。
とりあえず二階の彩羽部屋に浩哉を上げて葵はケーキと紅茶を出した。
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、いただきます」
「あの、でも、他に予定があったかもしれないのに、今日、カテキョの日でもないのにわざわざ来てもらって……こっちこそありがとうございます」
だけど、彩羽、本気なの?
こんなの、浩哉先生の前でお披露目して告白するつもりだったの?
そもそも今までとタイプだって……。
「……横暴の極み」
「ん?」
「あっ……なんでもないです!」
自分とは真逆の性格である双子の姉に内心呆れ果てる葵、普段から勉強を教えてもらっているローテーブルを挟んで浩哉と向かい合い、紅茶をずずっと飲んだ。
性格は真逆ながらもよく似た双子。
つまり女顔で華奢な葵は未だに年配の親戚から彩羽に間違われることもあった。
「もうすぐ彩羽戻ってくると思います、スミマセン……」
明らかに縮こまって申し訳なさそうにしている葵に、クッションに座ってあぐらをかいた浩哉は笑いかける。
「今日は特に予定なかったし。気にしなくていいよ。ところでお母さんは? 日曜はお父さんもお仕事休みなんじゃ」
「あ。お父さんとお母さん、二人で映画に。ごはんも食べてくるって」
「そう。仲いいんだね」
「久しぶりに二人で食事するからいつもよりいいトコに行くって言ってました」
これが彩羽ならば「ずるい」を連発するだろうが弟の葵は照れ笑い、仲のいい両親を褒められた気分で嬉しそうにしていた。
カテキョの浩哉はパジャマ姿の葵を今日初めて目にした。
ただでさえ隙だらけな男子中学生の無防備度が上昇しているというか。
「でもケンカもよくするし、この間は彩羽と三人でチャンネル争いしてました、アニメか動物かグルメかで」
勉強の呑み込みも早いし。
家族思いで。
なんだかんだ言って双子の姉のことも大事にしていて。
そしてかわいらしい。
ともだちにシェアしよう!

