345 / 596
たまゆらみすてりぃ/大学生×大学生←えっちな♂神様憑依
狂的なまでに騒がしかった雨音がいつの間にか止んでいた。
「お前、凪叉 だよな……?」
腕の中で微笑む彼。
いつもとまるで違う妖しげな微笑はまるでこの世ならざるものじみた……。
民俗学の講義をとっている大学二年生の登田誠一郎 は教授が戯れに出した課題なる夏休み自由研究に「地域伝承」というテーマを選んだ。
全国的には知られていない、地元の人間だけに伝わっている限定的おとぎ話の調査。
八月後半、誠一郎はこつこつ貯めていたバイト代をフルに使い、小旅行気分で車を走らせて情報収集に勤しんだ。
「あ、今の交差点、左だった」
助手席には同じ学科を専攻している凪叉が座っていた。
去年知り合った、よく言えば柔和で穏やか、悪く言えばトロい彼。
「結構、色々回ったね」
眼鏡をかけて、いつもうつむきがちで、日焼けに疎い白い肌。
「そだな」
「きっといいレポートが作れるよ。保平教授もビックリするくらいの」
凪叉は四十代でバツイチかつ色男の保平 に気に入られていた。
過剰に接触したがる教授に対し、何の警戒心も抱かず控え目な笑みでもってセクハラ紛いのスキンシップを受け入れている友人を見ると、誠一郎は毎回モヤモヤした感情を抱いていた。
やっぱり、これは、そういうことなんだろうな。
安旅館で二日間素泊まりし、同じ部屋で眠る凪叉を隣にしてやたら寝つきが悪かった誠一郎。
微かな寝息はとても聞き心地がよく。
寝返りの際の衣擦れの音色は鼓動の加速を誘って。
そっと横目で窺った端整な寝顔に時間も忘れて見惚れてしまって。
「……そういうことでしかないよな」
「ん? 何か言った?」
「何でもない」
凪叉に密かに惹かれている誠一郎はため息交じりに返事をし、ハンドルを切った……。
「これさ」
「うん?」
「完全、道に迷ってないか?」
「え? そうなの?」
スマホで地図を見ていながらいい加減な凪叉のナビによって誠一郎は峠道を闇雲にぐるぐる走り回ることになった。
「標識もないし。今、どの辺だろう」
「あれ」
「どした?」
「更新したら表示されなくなった……あ、圏外になってる」
夕方近くながらもまだ日の高い時間帯、擦れ違う車も後続車も見当たらず、整備された道から手つかずの山道へ、動物の気配すらない山林の狭間をガタゴト進むオレンジ色の軽自動車。
そんなときだった。
凪叉がそれを見つけたのは。
「今、鳥居みたいなのが見えた」
ネット検索で目ぼしいスポットをピックアップし、厄除神が祀られているというご利益のありそうな神社に向かっていた二人。
「へぇ。こんなとこに? 写真では民家とか写ってたけど、どう見たってこの辺人住んでないよな」
「違う神社なのかも。行ってみよう。せっかくだし」
「ん」
ともだちにシェアしよう!