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たまゆらみすてりぃ-6
「……くん、登田くん、登田くんっ」
意識を失っていた誠一郎はやたら切羽詰まった呼号で目が覚めた。
「と、登田君だよねっ? 君、登田君でしょっ? ああっ、眼鏡どこ行っちゃったんだろうっ、眼鏡眼鏡っ」
「凪叉……眼鏡なら、ここに……」
ホムラが必要としていなかった眼鏡を預かっていた誠一郎。
「……あ、やっぱり登田君だった。よかった」
「凪叉」
「ここって、登田君ちだよね? 俺、いつここに来たんだろう? ていうか……全く覚えてないんだけど……虫食いみたいに記憶が抜け落ちてるんだけど……」
俺、どうしちゃったんだろう?
「それに、何だか……あの、その、体が変っていうか……お、お尻の辺りが変っていうか……」
すでに外は暗くなっていた。
開けっ放しのカーテン、窓の外では夜に必要な明かりがせめぎ合い始めていた。
そうか。
凪叉の中にいたのは、あの神社にいたのは、ホムラ……だったのか。
やっとありのままを受け入れた誠一郎は目の前で焦燥しきっている凪叉に語り出す。
夢うつつのようなたまゆらのまことを。
欲に負けた自分の過ちも。
「え……」
「……謝って済む問題じゃないけど、ごめん」
ホムラに乗っ取られていた自分が誠一郎と、他の男達とも関係を結ぼうとしていたことを聞いた凪叉は青ざめた。
「い、嫌だ」
「……」
「嫌だぁ……俺、何人の人と……その……」
「あのな、凪叉。実際、お前が……その、シたのは……俺とだけ、だ……後は俺がつきっきりで死守したから……大丈夫だから」
「……ほんと?」
無意識に自分のシャツをぎゅっと掴み、緊張で肩に力が入っていた凪叉だったが。
誠一郎の視線の先で明らかにすとんと脱力した。
頑なに強張っていた表情を自然と緩め、ほっとしたように、笑った。
「……よかった、登田君以外の人と何もなくて」
え?
今度は誠一郎が硬直する番だった。
凪叉も凪叉で、つい安堵して洩らした自分の言葉の重要性に後から気が付いて、はたと口を閉ざし、耳まで真っ赤になった。
「凪叉、それって……」
「……登田君、えっと……あの……」
二人の狭間に降りた意味深な沈黙。
そんな沈黙を破るでもなく、ただ言葉もなしに、どちらからともなく近づいた唇。
薄暗い部屋に互いの吐息が紡がれて、次第に熱をもち、やがて。
「凪叉……」
「登田、くん……っおれ、知ってる……この熱さ……初めてなのに……わかる……」
「……うん、俺も……本当の凪叉とは初めてだけど……わかる」
ベッドに仰向けになって誠一郎を奥深くまで迎え入れた凪叉は、乱れた黒髪もそのままに、露になった腹をぎこちなく撫でて。
ホムラの余韻が残る肢体を隅々まで火照らせて恥ずかしそうに呟いた。
「……懐かしい……」
野暮ったい眼鏡がずれ落ちかけている凪叉に誠一郎は溶けるように笑う。
「……凪叉、俺のこと、ちゃんと見えてる?」
「……今、ちゃんと見えない方がいい」
「駄目だって……ちゃんと見ろよ」
「や、やだ……あっっ」
「……ここ、イイか?」
後孔の最奥まで沈めたペニスをゆるゆる動かしてみれば、凪叉は、ぎゅっと目を閉じながらも頷いた。
「凪叉、触ってみて……ほら」
「っ……っ……つながってる……おれと、登田くん……」
「うん……俺とお前、いっぱい繋がってる」
ギシ、ギシ、緩やかに軋み続けるベッド。
交じり合う悦びに不思議な既視感が追加されて長引く興奮。
「お前のこと、ずっとずっと好きだ」
本人にやっと想いを告げることができた誠一郎に凪叉は何度も頷いた。
「……嬉しい、登田くん……おれも……」
「せいいちろう」
誠一郎は振り返った。
短いひと時ながらも鼓膜に刻まれたその呼び声に驚かされ、まさかと思い、背後に立っていた彼を凝視した。
「……まさかホムラか?」
東館三階、凪叉と共に講義に向かっていた誠一郎は呆気にとられる。
多くの学生が行き来する廊下のほぼ中央で彼は微笑した。
「ホムラ? 登田君、それって俺の体の中にいた神様だよね? 保平教授も知って……?」
民俗学教授の体に入り込んだホムラはキョトンとしている凪叉を愉しげに一瞥し、愕然としている誠一郎にさり気なく擦り寄った。
「なかなか、この体もいい按配でな。悪くないぞ。何なら試してみるか、せいいちろう?」
「ぶはッッ」
「教授? ちょっと雰囲気変わりましたか?」
「そっちの体よりも感度抜群でな。試してみよ、試してみよ」
「無理だ、ていうか教授が可哀想だろ……でもないか、うん」
色男だったバツイチ教授に成人指定並みの妖しげな色気が加わり、数人の男子学生が擦れ違っただけで露骨に中てられている。
満更でもなさそうにウィンクしている保平、ではなくホムラに呆れ返って苦笑する誠一郎、不思議そうに二人を見比べる凪叉。
「ふぁみれす、行きたいのだ、いろいろ飲み食いさせよ」
「それなら、な。凪叉もいっしょに」
「凪叉はいらん」
「あの、教授、登田君に近くないですか?」
「お前、自分が接近されてるときは無反応だったのに、俺のときは……反応してくれるんだ?」
「え……? えっと……」
「惚気はやめよ」
たまゆらな戯れは巡り巡ってとこしえに。
end
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