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結んで縛って赤い糸-3
梓が転校生として梗の教室にやってきて一ヶ月が経とうとしていた。
「お父さんにも、誰にも……言ったこと、ない」
この数週間、平日だけじゃなく土日にもお邪魔したことのある梗の部屋。
窓の外は茜色でいっぱいだった。
レースカーテン越しに差し込んだ夕日がソファに座った梓の足元を暖かく照らしている。
中学二年生の時のことだ。
梓は担任の男教師と付き合っていた。
既婚者で、こどももいて、先などないとわかりきった関係だった。
それでも梓は満たされていた。
「でも、ある日、先生に……もうこういうことはやめよう、そう言われて……すごくつらくなって……」
梓は左手首にはめられていたリストバンドを外した。
その複数の痕跡をクラスメートに初めて明かした。
「つらいのをどうにかしたくて、紛らわせたくて……、……、……だから、もしも……気持ち悪いとか、そう思うなら……ボクにもう話しかけないで」
梓は眼帯をしていなかった。
視界が広すぎて怖いから眼帯をつけて半分に制限していた、それが片目を隠す理由だった。
梗の部屋でだけは外すようになっていた。
「アズ君」
隣で黙って聞いていた梗に呼びかけられて華奢な肩が過剰に震えた。
フードを外して、さらさらした黒髪を夕日に控え目に煌めかせ、壊れそうなくらい怯える胸に呼吸を忘れそうになりながらも。
梓は次の言葉をひたすら健気に待った。
「教えてくれてありがとう」
怯えていた胸に響き渡った梗の迷いなき声。
「つらかったんだね」
「……ボク、ずっと秘密にしてようと思ってた」
「うん」
「でも、だけど……梗くんにだけは……知ってほしいって、ボク……」
「泣かないで」
梗は震え続ける梓をそっと抱きしめた。
一つずつ、一つずつ。
梓は自分の体につけていた余分なモノを外してくれるようになった。
俺の前でだけ。
今日で全部外れたかな。
それともまだかな。
ちゃんと生身の梓を見てみたい。
梓の全部を知りたい。
誰も知らない奥まで俺だけのものにしたい。
「梓。キスしてもいい……?」
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