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コスモ系セレブな男子/ウルトラ貧乏人×ハイパーお金持ち
目覚めれば俺は夢のような場所にいた。
海外旅行番組に出てきそうな真っ白な別荘、天蓋つきベッド、開放された窓辺で爽やかな風にゆっくり波打つレース。
「おはよう、シノブ」
ミルクティー色の髪をさらりと流してお上品に微笑む大黒屋秀丸 。
あ。
俺、完全に拉致られた。
俺が秀丸と出会ったのは小せぇガキの頃だった。
「くっそ~どっかに百円玉落ちてないかな~」
ギャンブル好きでアル中の親父と二人暮らし……というか、もうほぼ一人暮らしだった俺は貧困小学生だった。
お笑いのコントで大袈裟に描かれるような貧乏ぶりだった、ほら、公園の露店で正規の値段で買えないからって、たこやきの数減らしてもらって安く買うっていうネタ、あるだろ? あれ、やったことある、場所変えて十回以上はやった。
自販機のおつりコーナーとか、自販機の下とか、晩飯代を得るために目ぼしいところを探し回っていた俺。
そしたら道端の真ん中でキラーンと光る……あっ、あのサイズはまさか五百円玉様!? 五百円玉様じゃない!?
思わずよだれまで垂らして五百円硬貨を見つけた喜びに浸っていたら。
俺より先にキラキラ眩しい硬貨へ近づいていく奴がいた。
それ俺の!!!!
お巡りさんを振り切ったこともある俊足を活かして道の真ん中に駆け込んだ俺は全力で奴に体当たりした。
結果、居眠り運転の車に撥ねられた、俺が。
幸いにも打ち身だけで済んだのはガチで奇跡だったと思う。
「うわぁぁぁんっっ」
その時、俺に体当たりされたのが秀丸だった。
「ごめんねっっごめんねっっ? だいじょぉぶっ?」
「げ……げほっ……きゅ、救急車……っ今すぐ救急車呼べ、いででッ」
「今爺やが呼んだからっっ」
「じ……じいや……?」
「キラキラしてて、なんだろうって、あ、もしかしてこれが硬貨っていうやつなのかなぁって……僕、一円玉とか十円玉って一度も触ったことがなくて、それで、つい……っうわぁぁぁんっっ」
「へ、へぇ……あれ、五百円だけどな……」
出会い頭からむかつく奴だった秀丸。
日本各地、いや、世界各国を股にかける、ありとあらゆる分野において企業を成功させている大黒屋財閥の御曹司。
「お名前なんていうの?」
「シ、シノブ……なぁ、救急車まだ?」
「シノブ、助けてくれてありがとぉ」
後日、晴れの日でも何故か雨漏りするボロ我が家にやってきた秀丸。
「シノブを僕のお嫁さんに下さい」
俺とタメだったおぼっちゃまにプロポーズされた。
黒人のボディーガードはおっかねぇし、爺やはちゃぶ台に勝手に札束をぼんぼん並べやがるし、秀丸は俺の手をとってにこにこしっぱなしだし。
こいつら宇宙人だ。
価値観がぜんっぜん違う、違いすぎる。
そんな御一行様に親父はスルメかぢりながら言ったんだ。
「スリルのねぇ金ほどつまらんモンはねぇ」
今、親父、日本のどの辺にいるんだろーな、競艇? 競馬? 競輪? 何かしらギャンブルしてんのは確かだな。
ていうか俺はどこにいるんだ、ここ、どこなんだ。
「ここは大黒屋のプライベートアイランドだよ」
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