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あわーさわーさまー/病弱×音楽好き

あ、これ来るな、と思った次の瞬間。 「また下郡(しもごおり)が倒れたっっ」 地面に崩れ落ちた次の瞬間、高二になって名前順でも背の順でも俺の前にいる(しの)が声を上げ……。 小さい頃から病弱です。 だからって持病はない、大病にかかったこともない、健康診断で引っ掛かったこともない、です。 なんかこう地味に体調を崩しやすいというか。 貧血が多くて冷え症でキウイアレルギーで。 そのくせ身長も体重も平均値、だから見るからに病弱ってわけじゃない。 「下郡、大丈夫?」 二限目の体育の授業で貧血を起こし、保健室で三限目をまるっと休んで教室に戻ったら。 「下郡が倒れるとき、前向いててもわかるようになった、気配で」 前の席の篠に心配された。 高二になって初めて知った同級生。 「すごくない?」 「うん。すごい。ついでに五分前くらいに俺の貧血察知してくれるともっと助かる」 「わーった、頑張ってみる」 篠はいい奴だ。 そこそこ明るくて、音楽がすごく好きで、フェスなんかにもよく行くらしい。 「音楽好きっていうか、フェスが好き、みんなでいっしょ盛り上がってただ楽しいって空気? クセんなる」 「ふーん」 「あ。来週末近場であるよ? 行く? 行ってみる?」 「俺、死なない?」 「ダイブしてきた奴のカカト、もろ頭に食らったら、打ちどころ悪かったら、死ぬかも」 「こわ」 「だいじょーぶだって。行こーよ」 「それって同中だった奴もくるの」 「ん。みんな下郡会ってみたいって。貧血王子見たいって」 「それださくない」 貧血だけで済んだのならまだしも。 「うわっ、下郡が吐いたっっ」 まだ前座でメイン出てくる前に完全酔ってゲーしてしまった。 だって人ぎゅうぎゅう、満員電車かっていうくらい、ちなみに満員電車でも貧血経験ある。 「救護テント行こ」 ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうな人垣を掻き分けて、俺のことずっと支えてくれた篠。 爆音に容赦なく胃がブルブルされて、おえ、きもちわる、もういいよフェスなんて、きついしうるさいしこわいよ。 「げほ」 会場の端に設置された救護テント、畳があって、その上に簡単に敷かれた布団、そこでごろんと横になった俺。 無料配布されていたウチワでずっと扇いでくれる篠。 ちなみに上半身裸だ。 何故なら俺がゲーして服汚しちゃったから、ほんとごめん、軽く死にたい。 「シャツ……ごめん」 「別に。でもオラオラに見られたらやだな、ハズイ」 「戻っていーよ……」 「ここいても音聞こえるし。水、飲む?」 「うん……飲む」 篠、いてくれてよかった。 「なんか食べる? 塩飴舐める?」 「塩飴……舐める……」 ショルダーバッグをゴソゴソして飴が入った小さな袋を取り出した篠。 ピィッと破いて、取り出して、俺の口に持ってきてくれた。 「下郡のこと介護してるみたい」 あむ、と食べたら篠は笑った。 篠はずっと俺のそばにいてくれた、三時間半くらい、他にも運び込まれた人が何人かいて、重症とかではなさそうで、女子もいたし、ほとんど年上っぽい人ばっかだった。 「おーい、シノー」 「お。おつかれー」 「もう終わっちゃったぞ。嘔吐王子、だいじょーぶなん?」 「大分楽になったって」 「(嘔吐王子……)あのさ、篠……なんかTシャツ買う、俺……介護のお礼」 「まじ? やった」 ほんと篠っていい奴だ。

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