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あわーさわーさまー-2
「夏、どのフェス行く?」
「いや、この間の俺もう忘れた? 明らかにむりじゃ?」
「仕切り直し」
「仕切り直し、必要ないです、フェスは諦める」
「この間のはゴリゴリだったから。もちょっと軽めのなら楽しめるよ、下郡も」
「ゴリゴリ?」
「ほら、Tシャツ着てんだよ、下に、昨日から着っぱなし」
「洗えよ」
「あっ。下郡がまた倒れたっっ」
………………あ、家かと思った、ここ学校だったか。
ウトウトしていた俺は保健室のベッドで仰向けになった。
「ん~~~」
思いっきり背伸びをする、そしたら「ごほんっ」と仕切りのカーテン向こうから誰かが咳をした、あ、女子だ。
しばらくそのままぼんやりしていたらチャイムが鳴って、だんだん校内が騒がしくなってきた。
「下郡ー?」
あれ。
うそ。
わざわざ保健室来たのか、篠の奴、そういえば美術室行く途中で貧血なったんだっけ。
次で六限か、きついな、休んどこーかな。
「あ、いた」
目を閉じていた俺は篠の声を聞いた、カーテンの隙間から確認したんだろう、ペタペタとシューズの裏を鳴らしてクラスメートは近づいてきた。
「下郡、起きてる?」
ちょっとしたイタズラ心が急にぶわっと。
俺は寝たフリ。
もうすっげーくだらないけど「わっ」ってやって篠のことビックリさせたくなって。
だけどいつどんなタイミングでやろう、ムズイ、距離感わかんないし、実は「わっ」てやったら篠もういなかったりして、それさぶい…………ん?
ペタペタ去って行った篠。
カーテンの向こうからはお世話になってる保健室の先生と、具合が悪そうな生徒の話し声がする。
あれ、今?
うおお、バス寒っ、梅雨だからってドライ効き過ぎ、やっぱセーター着ててよかったです。
「聞く?」
一番後ろ、窓際でマスクしてウトウトしていた俺、篠にイヤホンを差し出されて首を左右に振った。
「聞く?」
マスクの内側でふーーーっと息をついてイヤホンを片方だけ受け取り、耳に押し込む、あ、まぁまぁ聞きやすい、これがいわゆるゴリゴリじゃないやつか。
「初夏って感じしない?」
「うん? なんか言った?」
「初夏っぽい曲じゃ?」
「初夏? わかんない」
イヤホンを片耳に一つずつ、篠がバスを降りるまで同じ曲を延々と聞いた。
けっこうイイ曲だったな。
誰が歌ってて、なんてタイトルなのか、明日篠に聞いてみよう。
LINEやろうとすると頭チカチカ痛くなるから、そもそも携帯画面見ただけでチカチカするから、あんまり見ません、俺。
「あの曲よかった」
朝、教室でそう言えば調理パンを食べていた篠はめちゃくちゃテンションを上げた。
「まじで。来月野外ライブあるから行こ。ちょーど期末終わってっし、まだ夏休み入ってないけど。チケット取っとく。楽しみ」
「篠、俺にライブ行かない拒否権ある?」
「え? もったいないって。生で聞くの、ぜんっぜん違うから。中学ン頃もこのバンドのライブ行ったけどすっごい良かったし。野外のは初めてだから。楽しみ」
「篠」
「下郡にも知ってほしいよ、このバンドの生音の良さ」
「先生来た」
「篠、いつまでパン食べてんだ、没収すっぞ」
慌てて残りの調理パンを口の中に押し込んだ篠、俺は自分の席に着く、今日は貧血起こしたり原因不明の腹痛や頭痛が起きなきゃいいな。
あんな人ぎゅうぎゅうで何が楽しいんだか。
でもまぁ、行ってみよーか、あんな語ってくれたし。
『下郡、起きてる?』
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