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いんきゅばす男子に御用心-4

大学生の高尾千歳は草野球のサークルに所属している。 今日はその面子と毎年恒例の夜桜飲み会、大学の敷地内片隅にレジャーシートもなしに思い思いに寝転がり、缶ビールや缶チューハイ片手にお弁当を食べていた。 「ところでタカちゃん、例の女王様彼女とはうまくいってんの?」 コンビニのから揚げを頬張っていた千歳、友達の問いかけに顔色を曇らせた。 「うーん、ていうか彼女じゃないし」 「えっなにそれ、お気軽簡単セフレってこと?」 「確かにあのコえろそうだったもんなぁ」 「……まぁ、えろいのは確実だけど」 千歳の言葉に友達一同は「羨ましい!」とこぞって顔を輝かせた。 いやいやいや。 そもそも彼女じゃないんだよ、だってあいつ雄だし。 ていうか人間じゃないし。 いんきゅばすっていう妖怪みたいなもんらしい。 こいつら羨ましがってるけど、実際、毎日毎日何回も何回もあいつとシてみろよ。 事後の疲労感、半端ねーぞ。 『千歳、もっと喰わせろ』 たまにはエロなしの清々しい夜を過ごしたいんだよ、俺は……。 そんな気持ちでサークル仲間とのらりくらりお酒を飲んでいた千歳であったが。 薄紅の花弁が緩やかな風に情緒豊かに舞っていたはずが、急に、容赦ない突風が。 グランド片隅で砂埃が大いに舞い上がり、そばにあったものが飛んでいかないよう、百円均一で揃えた紙食器やら割り箸やらゴミ屑を皆は慌てて押さえにかかる。 バサバサバサ!! 砂が目に入って頻りに瞬きしていた千歳は猛禽類が大きな翼を羽ばたかせているような音を聞いた。 そして。 顔を上げればすぐ隣に例の女王様でえろそうな彼女とやらが。 「うわ!」 艶めくほどに漆黒のショートボブ。 肩が剥き出しでへそ出し丈のコルセット。 チェーンとベルトつきホットパンツ。 肘上まであるロンググローブ。 厚底のロングブーツ。 どれも全て黒のエナメル素材だ。 そして蝙蝠の羽によく似た翼が……。 自分と同じく砂埃が目に入ったサークル仲間が俯きがちとなって目元を気にしているほんの短い間、千歳は凄まじい勢いで羽織っていたパーカージャケットを脱ぐとすぐ隣に舞い降りてきたインキュバスにばさりとかけた。 「……ん、え!?」 「タカちゃん、いつの間に彼女連れてきた!?」 「……あはははは」 インキュバス男子のインクはバイオレットの大きな双眸で驚いている周囲をじろりと一瞥し、次に、隣で引き攣った笑顔でいる千歳をじっと見つめた。 「遅ぇから迎えにきてやったぞ、千歳」 「あ、あはは、あはははは」 周囲の視線を一切気にすることなく、硬直している千歳のお膝に大胆に跨ってきたかと思うと、インクは言うのだ。 「俺様、腹が減った」 か、勘弁してくれ、インク……。

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