333 / 596

いんきゅばす男子に御用心-3

「き、き、貴様~……」 生気が足りずに力の出ないインクは抵抗もできず、弱々しげな憎まれ口を叩くことしかできなかった。 千歳は千歳で、狂的なまでのきつい締めつけに全身を硬直させ、天井を仰いで、チカチカと瞬く視界を痛感していた。 やば、これ……。 痛いくらい、めちゃくちゃ、気持ちいい。 「すっすぐ出してやるからな、インクっ」 「だ……出すって、何をだ……?」 「はっ? 精液に決まってんだろ!?」 サキュバスでもない俺様がどうして人間の男の精液を搾取しなきゃならねぇんだよ! それは妹のサキルの仕事だ、この、クソ人間……!! 「ひぁ」 罵詈雑言の代わりにインクの口から飛び出てきたのは甘く甲高い声音。 両脇に両手を突いて前屈みとなった千歳が腰を動かしてきたのだ。 「あっばかっやめっやめろっ」 「ばかっ、死にそうなくせっ、遠慮すんなよ!」 「こンの、低脳やろ、ぉ、あっっあっっぁっ、ぁん」 千歳に突かれてインクは思わず目を瞑る。 色鮮やかな唇を半開きにし、緩く握った拳で口元を押さえ、長い睫毛を過敏に震わせる。 自分の尻尾をむっちりした太腿の片方に絡ませて、肢体をビクビクと痙攣させ、見る間に全身を淡い朱に染めていく。 少女に近い外見であるにも関わらず、ピンと勃った小さなペニスが股間に息づく様は、背徳的な色気にここぞとばかりに拍車をかけた。 ……カワイイ。 懸命に腰を動かしながら生唾を飲み、千歳は、律動に合わせて身震いするインクに心底見蕩れた。 「インク……」 左右に押し開かれた太腿に指の腹を浅く食い込ませただけで、さらに、ビクリと下腹部が戦慄く。 インクの足をもっと左右に広げ、でんぐり返しに近い格好をさせると、膝立ちとなった千歳は上から叩きつけるようにしてピストンした。 「あぁぁんっ、やぁっ、ぁっぁっぁっぁっ」 「インク、出すぞっ」 これで何とか生き延びてくれよ。 そうして千歳は腰を張り詰めさせ、インクの奥深くへ、肉欲の雫を大量に放った。 「ひ……!」 ドクドクと身の内に流れ出る千歳の精液にインクは掠れた悲鳴を上げる。 達した直後、千歳は何度かしぶとく腰を突き動かし、ひくつくペニスの先から肉壁のさらに奥へと白濁を迸らせた。 「ぁ……ぁ……」 後孔深くに埋められた隆起と皮膚の狭間から白濁の泡が滲み出、インクの内腿へ、ねっとりと伝い落ちていく。 口を大きく開けて喘いでいたインクは、きつく閉ざしていた瞼をゆっくりと持ち上げた。 そこにあるのは美しいバイオレットの瞳。 豊潤な色に満ちたインキュバスの双眸だった。 ……俺様、助かったのか? ……男相手に生気を奪ったってことか? いいや、生気というより、これは……。 「よかった……っ、インク……っ」 射精の余韻に呼吸を上擦らせながらも一安心した千歳は、とりあえず、深々とインクに突き刺していたペニスを抜こうとしたのだが。 「……ぎゃっ」 くるりとインクの尻尾が露出した棹に絡みついてきたので情けない悲鳴を上げた。 「イ、インクっ?」 棹に絡みついた尻尾は後孔から引き抜かれようとしていたペニスを再び奥へと誘う。 ヌプヌプと中に戻されて千歳は口を半開きにして喘いだ。 「はあぁぁ……」 インクは無言で腕を伸ばして千歳の肩を掴むと身を起こした。 千歳の下半身に乗り上がって正面を重ねてくる。 精液で湿る肉壁の最奥にペニスの先が及んで千歳は呻吟した。 「うぁ」 「……まだだぞ、人間」 窮屈そうに押し潰されていた羽根を広げ、バイオレットの双眸にインキュバス本来の性的飢えと、不慣れな感情というものを露にして、インクは言う。 「俺様、初めてだ」 「ふぇ……?」 「男の精液を食らったの、貴様が初めてだ」 「……なんか、ゴメンナサイ。でも、あの、お前を助けたくて」 「それも初めてだ」 「ふぇ?」 「人間、俺様を見たら全員、気味悪がったり、怖がったり、邪険にしたり……」 別に慣れてるけど。 俺様はインキュバスだから。 「……」 「でも、貴様は……俺様のこと……」 インクは頬まで赤らめていた。 なんつぅ可愛さだ、と千歳は思う。 傲慢で不吉で邪悪でありながらも、こんな、力いっぱい抱き締めてやりたくなるようなか弱さも秘めているなんて。 「インク……」 インクは千歳にキスをした。 「あっぁんっぁんっぁっぁっっ」 ベッドの上、座って正面を重ねた対面の座位で、千歳はインクを揺さぶっていた。 「いいっそこっいいっ……っいいのぉ……っ」 口を開けて嬌声を紡ぐたびに牙が覗く。 さすがインキュバスとだけあって、千歳の脇腹に両足を絡ませ、インク自らも淫らに腰を振ってペニスを摩擦してきた。 「ああ……俺もいいぞ、インク……っ」 柔らかな双丘をがしっと掴んで上下に揺らすとインクは背中を弓なりに反らした。 「あぁぁんっ」 「な、インク、名前っ、俺の名前、呼んでっ」 「んっ」 「千歳って、呼んで、ほら?」 「んん~……ちと、せ……」 潤んだバイオレットの瞳を切なげに細め、インクは、激しく貫かれながらも千歳を呼号した。 「千歳ぇ」 ああ、なんだよ、こいつ、可愛すぎる。 千歳はインクの背中に手を回し、羽根と尻尾の間に宛がうと、自分の方へ引き寄せた。 「んっ」 舌を差し出して唇が濡れそぼつようなキスをする。 インクも千歳の顔に片手を添えると、唾液を互いの舌尖へ塗りつけるようなキスに没頭した。 千歳の背中に回していた足を交互させて器用に腰を突き動かしてくる。 「あ、俺、もぉ、またいきそ……っ」 「出せっ出してぇっ千歳の精液ほしいっ」 こみ上げてくる射精感に膨張したペニスでインクの最奥をぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ引っ掻き回す。 インクは千歳に抱き着いて後孔をきゅっと収縮させた。 「あ、出る……!」 何度目かの射精とは思えない量の白濁を、千歳は、息も絶え絶えにインクへと捧げたのだった。 お喋りで賑わう大学のテラス。 中庭から差し込む日差しを横顔に浴びつつ、窓際のテーブルで千歳は定食を食べながらレポートに励んでいた。 「おい、タカちゃん!」 「うわ、ホントに噂通り……」 顔なじみの学生に声をかけられて、千歳は、参考書から顔を上げる。 「タカちゃん、いつの間にそんな可愛い彼女できたわけ?」 千歳の向かい側にて、テーブルにロングブーツを履いた足をどっかと乗せ、明らかにサイズの合わないフードつきパーカージャケットを小柄な体に羽織って、むちむちした太腿を惜しげもなく曝したインクは、じろりと彼らを睨み上げた。 「おい、俺様を気安くじろじろ見るじゃねぇぞ、屑共」 「お~噂に違わず女王様気質!」 「タカちゃんも隅に置けないねぇ」 インキュバスのインクを、カラコンをしたハスキーボイスの女の子だとすっかり思い込んでいる彼らは千歳を称賛し、お邪魔にならないよう二人の元から去っていった。 午後の講義でレポートを提出しなければならない千歳は受け答えもそこそこに、文字の羅列にあたふたと視線を戻す。 お行儀の悪いインクはテーブルに乗せていた足を下ろし、イスの背もたれに深々と身を沈めると……。 「う」 テーブル下で片足を伸ばし、ブーツのヒールで千歳の股間をぐりぐりしてきた。 「ちょ、インク、ホントやめて、これ仕上げないと、俺、単位が」 「俺様、腹が減った」 「ふぇ?」 バイオレットの瞳に悪戯っぽく底なしの性的飢えを忍ばせて、色鮮やかな唇をちろりと舐め、インクは囁く。 「千歳、喰わせろ」 隙間風が半端ないアパートの部屋で朝方まで千歳を搾取しながらも、インクは、まだ足りなかった。 初めてインキュバスである自分を恐れなかった、邪険にしなかった、この命を救ってくれた男。 初めて覚えた人間の名前。 千歳。 千歳の愛情で俺様は、きっと。 「今すぐ千歳喰いたい」 「……たく」 千歳は参考書をぱたりと閉じた。 ある日、突然窓ガラスを割ってアパートに転がり込んできた、黒い翼にボンテージルックスで紫の瞳を持つ、口の悪い、凶悪な奴。 だけど俺は恋に落ちてしまった。 インク、お前、やっぱりとんでもなくやばい要注意いんきゅばすだ。

ともだちにシェアしよう!