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血迷いラプソディ-4

まだ幼い肉片は芯を持ち始めて熱を帯びていた。 力を加減した利き手で握り締め、そっと、くにゅくにゅ、ぐにぐにと、掌の内側で擦ってみる。 「んッ……ンン~……」 鈴宮は俺の動作一つ一つに過敏に小さく震える。 手の中の性器は加減した愛撫に忠実に熱を増して、幼いなりにも硬く張り詰めてきた。 蓋をした洋式トイレに座った俺は鈴宮を膝に乗せ、後ろから抱っこした状態で、小さなペニスを緩々と弄くっていた。 鈴宮は嫌がっていない。 抵抗していない。 これは合意の元、だから犯罪じゃない。 なんてのは全て俺の都合のいい解釈。 どう考えたって全人類にあるまじき行為だ。 それでも俺は鈴宮に触れてみたかった。 「大丈夫……か、鈴宮……?」 何の警戒もなしに俺の胸にもたれかかる鈴宮に問いかける。 「その……気持ち悪くないか?」 「……気持ち悪くない……」 「……本当か? 無理してないか?」 「先生の手……でかくって……気持ちいい」 鈴宮の全身が熱に満たされつつあった。 服越しに重なった場所から無視できない火照りがじわじわと伝わってくる。 シューズを脱ぎ捨てた、靴下に包まれた足先は、湿る先端を親指で擽る度に余計に力んだ。 片方の太腿には脱ぎかけのトランクスが引っ掛かっていて異様な色気を出している。 俺の胸に頻りに背中を擦らせながら鈴宮はちょっと笑った。 「オレ……担任、日向先生がよかったんだぁ……一緒に遊んでくれるし、楽しそーで……昼休みとか……みんなで遊んでるの、すげー羨ましかった」 「……清見先生より、先生の方がいいのか?」 何を聞いているんだ、俺は。 何でときめいているんだ、小学生の他愛ない願望なんかに。 しかし俺の自重は次の鈴宮の一言で脆くも崩れ去った。 「うん……日向先生が好き……」 好きっていうのはあれだろう。 給食が好きとか、友達が好きとか、体育が好きとか、それらと同レベルの好意に過ぎないやつだろう。 「ぁ……先生ぇ……」 それなのに俺は完全に舞い上がっている。 鈴宮がちょっと体を揺らしただけで、甘い声を上げただけで、その先端がとろみある先走りを零しただけで。 俺の中にもあからさまな熱がこもる。 「気持ちいいか、鈴宮……?」 「いいよ……気持ちい、日向先生……」 熟したグミっぽい唇から唾液が伝っている。 指先で拭ってやると、それにも感じたらしく、鈴宮はピクンと肢体を震わせた。 「オレ……もぉ……出ちゃうよぉ……」 鈴宮が長袖のシャツの袖口を噛んでいる。 やばい、可愛すぎる。 普段は勝気で女子に対して暴言を吐きまくる唇が女の子言葉を洩らし、果汁じみた唾液に塗れ、快感に耐えるためにシャツを噛むなんて。 反則の連続だ。 「先生、もぉ……っ、オレ、出してい……?」 「ああ、出していい」 俺は弄くるだけにしていた鈴宮のペニスを扱いた。 崩れ落ちそうになる小さな体に片腕を巻きつけて支え、日なたの匂いがする髪に鼻先を押しつけて、狭い個室にグチュグチュと濡れた音を立たせた。 「やぁぁぁ……っんっん、ん~……っ」 鈴宮は俺の腕の中で射精した。 先に鈴宮を自分の教室へ帰し、個室に残った俺は、この上なく不謹慎ながらも放置できそうにない熱を洋式トイレの水の中にぶちまけた。 そのまま授業に出る方が大いに不謹慎だろう、なんて、それらしい理由で理性を誤魔化して。 もっと不謹慎な過ちを仕出かしておいて今更自分自身を誤魔化すな、という感じもするけどな……。 「……鈴宮は鬼門だな……」 教師として、人として。 最大の過ちを犯さないためにも鈴宮とは距離をおかなければ。 *** 「男が妊娠するわけないじゃん」 「……あ、そうなんだ?」 「……鈴宮、頭大丈夫? てか、何? 何で笑ってんの?」 「別に! ブスには関係ねーよ!」 「この! クソ鈴宮!」 隣の女子と言い合いしていたら友達が笑顔で駆け寄ってきた。 「いつものリイチだ!」 「元に戻ってよかったぁ」 そう。 オレは自分がニンシンしたらどうしようと、その不安でいっぱいで、あとチンコがずっとムズムズしていて午前中は誰ともろくに話をしなかった。 だけど昼休みに日向先生から触ってもらったら、何か、すっきりした。 それに男はニンシンしないんだって! 「なぁなぁ、放課後遠足のおやつ買いにいこう!」 「遠足、まだ来月で先だってば」 「あ、そっかぁ!」 *** 午後になって鈴宮君の様子が変わった。 午前中は浮かない顔つきで始終俯きがちだったというのに、昼休みが過ぎてからは友達とよく会話し、女子と言い合いし、授業中も消しゴムを投げて遊んでいた。 君が笑顔でいてくれるのは喜ばしい。 だけど何だか少し寂しいな。 昨日のこと、もう忘れてしまったのかな? 「日向先生!」 聞き間違えることのない、いとおしい声。 目を向けると廊下を走る鈴宮君の姿が。 その先には日向が立っていた。 Cクラスの担任で教頭に何かと目をつけられている若い教師だ。 溌剌としていて女性職員には人気があり、男女問わず生徒からも親しまれている好青年だった。 その好青年が鈴宮君に話しかけられて顔を強張らせている。 せっかく君が話しかけているというのに、そのぎくしゃくとした態度はないだろう。 そういえば朝も様子が変だったな、彼は。 「ごめんな、先生、急いでるから」 そう言って踵を返し、こちらへやってくる。 鈴宮君は大して気にする素振りも見せずに相変わらず天使のような笑顔で、待っていた友達の元へと戻っていった。 立ち止まっていた私に気づいた日向は、朝と同じく、傍目にも明らかに動揺した。 「私のクラスの鈴宮君がどうかしましたか?」 そう問いかけると首を左右にブンブン振り、引き攣った笑顔を浮かべ、そして不意に凛とした真剣みを帯びたかと思うと。 日向は私に言った。 「鈴宮にもう二度とあんなことしないでください」 *** そう。 俺だって。 もう二度とあんなこと鈴宮にはしない。

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