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血迷いラプソディ-9

スペアリブを煮込んだカレー。 アスパラとサーモンのクリームパスタ。 生ハムとクルトン入りのシーザーサラダ。 色とりどりの可愛らしいケーキに甘めのオレンジジュース。 「何これ、すっげぇおいしい!」 「そうですか。こちらはどうですか? はい、あーん」 「あーん!!」 清見先生が片手を添えて差し出したフォークに鈴宮はぱくりと素直に齧りつく。 「うわ、これもおいしい!」 「ふふふ。喜んでもらえて何よりです」 ……あれ、ここって俺の家だよな? それなのにこの蚊帳の外みたいな空気は何だ? 「清見先生、コックさんになればいいのに!」 鈴宮、料理に夢中……まぁそうだよな、確かにうまいもん、清見先生がつくった飯。 昨晩から俺の家に大荷物ぶら下げてやってきて、狭い台所占領して、露骨な妄想話しながらも手際よく下ごしらえをしていって。 『日向先生、玉ネギ炒めてください……そうそう、そちらの冬休みの予定はどうなってるんです? 鈴宮君とご旅行……は、さすがに無理ですか。まだお泊りはされていないんですか?  鈴宮君との一夜、夢ですよね。だって、パジャマ、着ちゃうんですよ? あんな無防備な服、堪らないですよね。寝返りすれば脱げちゃいますよね、きっと。足でも脱がせられますよ、きっと……あ、人参とジャガイモ足すの、早いですよ』 本日、クリスマス本番、朝っぱらから再び俺のアパートを訪れ、昼にやってくる鈴宮のために料理を仕上げていって……。 『本当はサンタさんのコスプレ、させたかったんですよ、だけど日向先生があまりにも拒まれるので断念しましたけれど。何を今更、×××に×××を突っ込んでいながら自重する意味なんてあるのか、と疑問に思いましたがね。そこは譲りますよ。……え? もちろんスカートに決まってるじゃないですか。何わかりきったことを言ってるんですか、日向先生。絶対領域に決まってるでしょう』 ……もう嫌だ、お願いだから俺をこれ以上毒さないでくれ、清見先生……。 「次は何食べようかなっ」 狭いテーブルいっぱいに並んだ、どれもおいしそうな料理の間を忙しげに行き交う鈴宮の視線。 その双眸はあどけなく煌めいていて、隣を陣取る清見先生の服の裾を引っ張って「あれ食べたい!」と無邪気に強請る様は……うん、可愛い。 鈴宮のサンタさんか……最高にキュートだろうな……。 ……ああ、清見先生の毒が伝染してる。 てか、料理をほぼ全て作った清見先生につい遠慮して言えないでいるけれど。 俺も鈴宮に「あーん」がしたいんだよ! 「日向先生!」 向かい側で取り皿片手にぼんやりしていた俺は鈴宮に呼びかけられてはっとした。 鈴宮は満面の笑顔を浮かべてフォークにぶっ刺した肉片を掲げていた。 「はい、あーん!」 いや、逆なんだけど、鈴宮。 でもまぁ、これも悪くないか。 俺はちょっと上体を前に倒して喜色満面の鈴宮が差し出すフォークから肉片を齧り取った。 「おいしいっ?」 まるで自分が作ったかのように問いかけてきた鈴宮に俺は頷いてみせる。 すると鈴宮は言った。 「オレ、いつかこんな料理、がんばって、先生にいっぱいつくるから!」 す、鈴宮……。 何かお父さんみたいな気分になっちゃうから、そんな台詞、やめてくれ……涙が出そう……。 思わず目頭を潤ませた俺を見、清見先生は微笑する。 「じゃあ、私は日向先生から、あーん、してもらいましょうかね」 ……え、何でそうなる? 「はい、日向先生、あーん」と、言って清見先生が口を開ける。 端整な顔をしたこの人が無防備に口を開くのは、何か、変な色気があって、何か、怖いな……。 「い、いきますよ、じゃあ……」 鈴宮が夢中でクリームパスタを頬張る中、俺はフォークに刺したアスパラをぎこちなく空中に掲げたのだが。 「いて!」 何と、清見先生は俺の手に噛みついてきた。 「ああ、間違えました」 笑い転げる鈴宮の頭を撫でながら、清見先生は、フォークから落ちたアスパラを長い指で摘み上げ、俺の口の中に突っ込んできた。 「!!??」 「ちゃあんと噛んで飲み込んでくださいね、日向先生?」 目を白黒させる俺を横目に、清見先生は自分の指についたソースをぺろりと舐め取る。 この人、何考えてるのかさっぱりわからない。 俺は鈴宮を撫で撫でする清見先生を見据え、自分も鈴宮の隣にささっと移動し、その小さな体をこちらへ引き寄せた。 「……」 清見先生と俺の視線が頭上で激しくぶつかり合っているのも知らないで、鈴宮は、呑気に言う。 「何か、オレ、二人の子供みたい!」 まさか俺がお母さんじゃないよな、鈴宮? *** 私が最も愛して欲する鈴宮君。 そんな君は日向が一番大好き。 日向には君の体液が付着していますよね、きっと。 日向越しに君を感じるのも、また、一興かもしれませんね、ふふふ。 *** 何か、夢みたい、こんなクリスマス。 夜、今日も家に帰れば一人だけど、でも、なんか、平気そう。 だって今がこんなに楽しいから。 次は、もっともっともーーーーっと楽しいだろうから!!!! end

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